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​白 銀 の 戦 慄

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【銀魂】ぐちり屋─新入り

  • 執筆者の写真: siversou
    siversou
  • 5月27日
  • 読了時間: 5分

 月明かりも乏しい夜道。

 提灯の灯と目に優しい電球色が、人通りの少ない夜道で店を広げていた。


──ぐちり屋


 その店は、本来飲食を取り扱う屋台であれば、売っているのはその「味」や屋台と言う特別な営業方法だからこそ味わえる「雰囲気」だろうところ、一風変わった趣向を凝らしていた。


『一つ 好きなだけグチって下さい。』

『二つ 一人で来て下さい。』

『三つ 知り合いに会っても知らぬフリをして下さい。』

『四つ ここで聞いた事は他言しないでスグに忘れて下さい。』


 そう、店名通りそこは“愚痴るためにあるお店”──その名も通り「ぐちり屋」。

 その店では、今日も内に抱えきれない愚痴をこぼしに、ふらりと客が訪れる。




*****



「よー、やってるか、親父」

「勿論でさ。ささ、どうぞ座ってください。それで、ご注文は何にします、お侍さん」

「ここ、なにがあんの? 親父のおすすめとか教えてくんね?」

「うちは御覧の通り、腹に入るもんだとおでんや、飲み物関連なら基本的には出せると思いますよ」

「んー、じゃあイチゴ牛乳とか置いてる?」

「へい」

「流石親父、分かってんね。そんじゃイチゴ牛乳の日本酒割で。手持ちに余裕はねーから一番やっすいやつね」

「……はいよ、お待ちどおさま」

「あんがとよ、親父」

「いえいえ、これが商売なもんで。それじゃ、お侍さんはうちが初めてですよね」

「まーな」

「うちにはローカルルールってのがありましてね。まずはこれを見てください」


『一つ 好きなだけグチって下さい。』

『二つ 一人で来て下さい。』

『三つ 知り合いに会っても知らぬフリをして下さい。』

『四つ ここで聞いた事は他言しないでスグに忘れて下さい。』



「というワケなんでお侍さん、今日はこれ、忘れないでくださいね」

「へいへい。心得ましてございましたよ、親父殿」

「ヘヘッ、お侍さんはここに馴染むのも早そうだ」

「そうかぁ?」

「まぁ、こういった店なんで色んな人が愚痴を言いにやってくるわけなんですがね、お侍さんならどの常連さんともうまくやっていけそうって話でさ」

「へぇ、ぐちり屋なんて酔狂な店に、頻繁に顔出しするような酔狂な客がそこそこいるんだ?」

「生きてれば何かしら腹の内にたまってくるのが人生ってやつですからねぇ」

「ちげーねぇ」

「それでお侍さんは? うちみたいな酔狂な店に来たってことは、お侍さんも腹に溜め込んだ憂さを晴らしたくなってきたんでしょ。さぁさぁ、遠慮なさらず存分に愚痴ってて下さい。なんてったってここは『ぐちり屋』なんでね」

「愚痴っつーかなんつーか、ここに入った理由でもあんだけどよ、今日は何処の行きつけも貸し切りだの臨時休業だの、知り合いがどんちゃん騒ぎしててとてもゆっくりできそうにないだのでな。それなら家でのんびりするかって思って一回家に帰ったんだけどよ。うちに住んでるガキ連中が、今日は若い者同士で秘密の作戦会議をしたいから帰ってくんなとか、家主であるはずの俺を追い出してきてよ。あれ、この家の主人、一応俺じゃなかったっけ? たしかに家賃滞納とかよくしちゃってるけど、家借りてるの俺だよね? たしかに最近じゃ元社長の俺もヒラに格下げになったけどさ、なんか扱いおかしくない? もうちょっと色々手心とかあってもよくない? って思うじゃん。まぁ、そんなこんなでそこいらを適当にフラフラしてたら、のんびりできそうなここを見つけてね」

「なぁるほど、そりゃお疲れさまってやつですね、お侍さん」

「まーな。昔と違って今はもういい年の二人と一匹で一体何を話すってんだか。まぁ、あいつらに限って変なことはしないって言えっから俺も素直に外に出て来てるわけだけどよ。なんつーか、ガキ連中の成長は本当に早いなって、嬉しいやら悲しいやらって心境よ」

「子供ってのは大人の見てないとこで勝手に成長して、時にこっちが思っている以上の成長をしていきやすからねぇ」

「ははっ、本当にな。俺たちも長いこと別々になって生きる時間があったけどよ、やっと色々片付いて落ち着いたってのに、こうも扱いが変わっちまうと、素直に喜びてーけど、シンプルに仲間外れってのが……大人だけど俺は永遠に少年の心を忘れない大人だからね。普通に傷つくからね」

「まぁまぁ、俺たちゃ俺たちで、酒の味が分かる大人である幸せを嚙みしめて、今夜はとことん腹にたまったモンぶちまけてってくださいよ」

「失礼する、親父殿。今夜もやっているようだったのでな。久しぶりに顔を見に来た」

「おや、これは久々なお顔だ。一時期はテレビでやんややんや騒がれてましたが、元気にしているようで安心しましたよ。ささ、どうぞお座りください。ほらほら、お侍さんもちょっと横にズレてやってください。こちら、昔はちょくちょくうちに足を運んでくださっていたフルーツポンチ侍さんです」

「あ、どーもー。今日初めてここに来た新入りでーす」

「うむ、俺は肉球ラブにゃんだふるだ。今日もよろしく頼む。なんだか貴殿とは初めてな気がせんな」

「そっすねー。昔からよく顔つき合わせてる気がしますねぇ」

「そうだな。やる気のないまるで死んだ魚のような、覇気の欠片もないような目、その奥に見え隠れする力強い意志。まるで歴戦の兵のようではないか」

「そっちも、まるでラーメン屋で蕎麦ばかり頼んで店主に呆れられてそうな顔してますよ」

「「…………」」

「あれ、ひょっとしたお二人とも……」


『一つ 好きなだけグチって下さい。』

『二つ 一人で来て下さい。』

『三つ 知り合いに会っても知らぬフリをして下さい。』

『四つ ここで聞いた事は他言しないでスグに忘れて下さい。』


「お二人さん、ほらこれこれ、三つ目、三つ目のところ」

「「……」」

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