土方さん、もしくは真選組主役で書こうとした残骸。
兄さんが死んだ。
ミツバが逝った。
伊藤を殺した。
仲間を守りきれなかった。
多くの者を殺した。
多くの者を失った。
だが、それでもアンタだけは、絶対に殺させやしねぇ……
「……近藤さん、それはやめとけ」
真選組屯所のある一室。
土方は哀れな者でも見るような目で、近藤に言い放った。
「流石に今回ばかりは、近藤さん一人を囮なんて真似できねぇよ」
咥えていた煙草を手にとり、ゆっくりと口に含んだ煙を吐き出しながら、土方が近藤を見据えた。
「そうでさ。今回の獲物は結構数いるんですぜ? それを近藤さん一人で引きつけるなんて、無茶言うのも大概にしてくだせぇ」
首を左右に振りながら、馬鹿にしたような素振りで沖田は近藤を見て言う。
「しかしだなァ……そうでもしなきゃ他の奴らへの負担が」
「しかしもかかしもねぇよ近藤さん」
「そうそう。こういう時は土方さんにでも囮役を押し付ければいいんでさ……ついでにくたばれ土方」
「あぁ、総悟の言う通りだ。今回の件、囮役は俺が買って出よう……テメーがくたばれ」
二人に自分の案を却下され、ガクリと肩を落としている近藤の両脇で、沖田は土方に、土方は沖田に。
互いに子供のようなことを言いあっていた。
どこからどこまでが本気なのか。
二人の喧嘩は刃傷沙汰になって幕を下ろしたという。
足音を忍ばせ、少し前に廃墟となったビルを行く。
辺りは薄暗く、目を凝らしてやっとどこに何があるかを理解できる。
そんな所を一人で行く黒き影。
影はある場所まで行き着くと、周囲を見渡して適当に目についた空の缶を足先でカツンと強く蹴り上げた。
蹴り上げた空き缶は、そのビルの一階の天井に強くぶつかり、そのまま自然の法則で垂直に落下する。
カンッ カラン カラン
すぐに上の階から忙しない足音が響き、耳を刺激した。
男──土方はそれを確認し、口元を微かに吊り上げる。
腰に差した刀の鞘に片手を置き、もう片方で刀の柄を掴んだ。
息を吞む──そして
「真選組だ! 神妙にお縄につきやがれ!!!」
肺に溜め込んだ空気を一気に吐き出した。
刀を振り抜き、その瞬間だけ、銀とも白とも比喩できる光が痕を残す。
それから僅か数秒後、土方の視界で何かが動きを見せた。
微かに聞こえるこの音……土方がそれを理解した時、それは大きな音を立てて目も眩む光を放った。
土方の視界を奪った──範囲は約五メートルであろう──小さな手榴弾の爆発に、土方は体を呑まれる。
油断した。
土方は気の緩みから回避し損ねた爆発の煙の中、奥歯を噛みしめる。
咄嗟に投げ込まれた手榴弾本体を斬ったが、爆発には間に合わなかった。
まさか奴らが手榴弾までも密輸していたなんて。
山崎の調べにはなかった。
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