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​白 銀 の 戦 慄

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執筆者の写真siversou

[まじコナ]クロスオーバー[リボーン]

――――――……くれぐれも工藤君には勘付かれないように気をつけてね、獄寺くん

 まだ二十歳そこらだろう。年若い男の注意を促す声に、表の世界ではまだ市販化などされてすらいないだろう特注品のイヤーカフの向こう落ち着いた声で「任せて下さい」と返され、男――いや、青年は一目でそれが上質だと分かる重厚感溢れるコートを気取ることなくごく自然な動作で脱ぎ、目の前でこちらを伺う男に目を向けた。

「……新作、どう? ウチ、今回は自信作」

「うん、いいよコレ。前のより装着感もないし、コンタクトと連動し通信状況に応じてその都度みんなの状況も任意でディスプレイ表示出してくれるのは助かる」

「よかった」

 表情からは分かりにくいが、その分、青年の応えにつなぎ姿というラフな格好をしている男の声が彼の十分な安堵を青年に伝えていた。

「…スパナ、キッドの方はどうなってるの?」

「【雨】ならプリーモの指示通り、時間まで待機してる」

「そっか。なら大丈夫そうだね」

 コートを近くのチェアに掛けながら破顔した彼に、スパナは軽く頷いて正面のディスプレイに向き直った。

 そこで何を思い出したのか、スパナは「あ」と声を上げてもう一度青年の方を振り向く。

「そう言えば忘れてた」

「え、なに、どうしたの?」

 緊迫感のない彼の表情に緊急性の高い報告でないことは分かる。また基地の何処かに不具合が出たのだろうか、と呑気に考えていた青年は、次に放たれたスパナの言葉に顔を手で覆った。

「プリーモが戻ってくる一分前に、【雷】が入れ替わったって【晴】から連絡が」

「なんでこんな時にくるかな……」

 青年の声に反応したのか、イヤーカフからは「あのアホ牛」と言う【嵐】の声が聞こえた。


 事の始まりは、五日前にまで遡る。



**********



『だから言ってるじゃない! 優作ってば、抱えてる原稿がまだ七本もあるのに、昨日倒れちゃってね。こっちは今各国の編集者たちがゾンビみたいな顔して部屋の前で唸ってる地獄絵図よ。やっぱり他の原稿を四本上げた疲れが出たのかしら。あー、でも、今イタリアで新種のインフルエンザが流行ってるって噂だし、優作ももしかしたらそのインフルエンザにやられちゃったのかも……』

「母さんは平気なのかよ、父さんにその新種のインフルが感染したんだとすれば、母さんも同じ部屋に泊まってるんだし危ないだろ」

『あ~ら、新ちゃんってば珍しく優しいじゃない!! 何時もは煩いだのなんだのって私の電話を邪険にするのに』

「それは母さんが無駄にハイテンションだからだろ…」

『えー。優作も新ちゃんも落ち着きがある分、私は二人を楽しませようと、これでも頑張ってるのよ?』

「へいへい、そうかよ」

『なによもう、刺がある返事ね。まぁいいわ。それで? 新ちゃんは無事に乗船できたのかしら?』

「あぁ。ちゃんと乗船して今は割り当てられた部屋の中だ。……つーか、話には聞いてたがなんだよこの馬鹿デカイ船!! 鈴木のじーさんとこのよりデカいだろこれ!!」

 新一はそう電話口にそう言いながら、改めて部屋の中を見渡した。

 部屋の中は質のいい調度品で埋め尽くされていた。それらは全て、一目で値が張ると分かるものばかりだ。かと言ってただゴテゴテとした無粋な煌びやかさはなく、どことなく上品な……気品のようなものを感じさせる。

 部屋もただだだっ広いのではない。

 客の趣味嗜好に合わせているのか、新一の部屋にはイタリア原本ではあるが、おおよそ数百にも上るだろう推理小説と、性能が市販されているものよりも良さそうに見えるノートパソコンが一台、部屋には鎮座している。

 これは全て、自分の父である優作のために誂えられたものだ。

『でしょうね』

 自分の声にそうサラリと言って返され、新一は脱力する。

 何が「でしょうね」だ。世界でも名を馳せているらしい鈴木次郎吉相談役が自慢していた船より大きいってのは一体どういう了見だ。

 あのじいさんの事だ、この船の存在を知ったらまた対抗して「世界一大きな船」を作ろうとするだろう。

 それが想像するに容易い事だと彼の性分を知っている新一は、頭の中で嬉しそうにワハハハと笑う彼を想像して乾いた笑い声を漏らした。

『だってその船、あのpalude(パルーデ) company(カンパニー)の船なのよ?』

「palude……イタリア語で“沢”だったっけ?」

『そうそう。本当なら一般人は決してお目に掛かれないのよ!! 新ちゃんってばツイてるわね』

「palude companyって確か、イタリア貴族の祖先の血を継ぐ日本人社長、沢田綱吉さんがトップを張ってる会社で、社長のプロフィールはそのほとんどが非公開、なんだよな」

『えぇ』

「彼の姿を見ることができるのは、イタリア社交界の場と彼が懇意にしている貴族や社長だけって噂、その口ぶりからすると本当なんだな」

『そうよ。だから鈴木次郎吉相談役はきっと、その船の存在を知ることもないでしょうね。その船が動くのは希らしいし。とっても大きい船らしいけど、今までその船を乗客として乗り込んだ人以外は見たことないって噂だもの。でもね、それって少し可笑しいと思わない新ちゃん?』

「少しどころじゃなく可笑しいだろ、それ。なのにそんな曰く付きの船に招待された推理小説家様は今、急な体調不良でベッドに沈んでいる、と」

『まぁまぁ。優作も流石に今回のことは申し訳なく思ってるようだし、元気になったらその内お詫びの一つでも新ちゃんに贈るつもりでいるんじゃない?』

「へー」

 適当に用意されていた本棚を物色しながら、新一はあまり期待できそうもない母の言葉に生返事を返した。

 そこでふと、新一はとある著書に目を惹かれる。

『だから優作への恨み言はまた今度、優作本人に言って頂戴』

「父さんが元気になったらメールで良いから連絡してくれ。今回のこと含め、父さんには言ってやりたいことが山と募ってんだ」

『分かったわ。それじゃあね、新ちゃん』

 電話が切れる最後、有希子から「沢田社長とその家庭教師によろしく~」と言い残され、新一は手にとった本を片手に、「家庭教師?」と訝しげに首を傾げた。

 携帯を上着の内ポケットに仕舞いながら新一はボヤく。

「なんのことだ、家庭教師って?」

 船はまだ、乗船客を迎えるため港に停船したままだ。





「うっへー、スゲーなこりゃ」

 見上げる首が痛くなるほど馬鹿デカイ船を前に、快斗は声を上げた。

 今日はこの船で世界各国に名を馳せる著名人たちを呼んで、パーティーを開くらしい。と言っても、乗船客の数はそれほど多くはなく、ホスト側の人数を抜くとこの船に乗船することになるのは自分も含め五人もいないという話だ。

 かくいう自分も「世界各国に名を馳せている」とまではいかないが、最近では漸く一部の国々には名が広まってきた方だと快斗は自負している。

 そんな快斗のもとにこの船への招待状が送られてきたのは、今日から丁度一週間前。

 招待状には慇懃無礼な書き方で、しかしその内容だけを見れば、コレの送り主がとても暖かい人物なのが分かるようなものだった。

 簡単に訳すと招待状の中身はこうだ。

『いきなりこんな招待状を送りつけて申し訳ない。自分の知人が君のことを高く評価しているので、自分も君のマジックを一目で良いから見てみたくなった。本当なら君のマジックショーは自分でチケットをとって正規の手段で見に行くべきなのだが、自分はなんだかんだと忙しい身で中々自由な時間を確保できないでいる。君さえ良ければ、一週間後に開く自分の船のパーティーに招待したい。そこで招待客含め、自分たちに君の作り出す幻想の世界を見せてはくれないか。無理にとは言わない。君にも君の都合があることは承知している。だから、もしこの招待を受けてくれるならで良い。君と言葉を交わせたら楽しいだろうね。高圧的になってしまうかもしれないが、自分はその時を楽しにしている。君は君のしたいように、この招待を受けるなり蹴るなり、好きにしてくれ』

 快斗はこれを読み、次に脳内ネットを検索して送り主――沢田綱吉のことを

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