夏の蒸し暑さは既に去り、ここ最近では季節が夏から秋に移って行っている事を、その肌をすべる涼やかな風が教えていた。
今年の夏は例年にもまして蒸し暑く、髪を撫で付け吹く風には、夏特有の湿気と共に、攘夷戦争により流れたであろう血の臭いを嗅ぐわせる。
きっとそれは、攘夷思想を持ち、天人に向かって散っていった、哀れな侍たちの残り香。
それを思うとなぜか、この血の色に染まったかのような風も嫌悪しきれない。
別に、同情をしているわけでは無い。
ただその尊い命を、この無意味な戦争で無駄に散らしてしまった事実に、胸を痛め寂しさと虚しさを覚えてしまうのだ。
何故、自分の命を大切にしようとしないのだろう。
何故、そんな侍達を、この国は簡単に裏切れるのだろう。
虚無感と喪失感を抱きながらも、その事に気付こうとしない者達は、一体この世に幾等いるのだろうか。
「あぁ~、オジサン迷っちまったな~。だからオジサン嫌だったんだよ~? こんな無駄な時間があるなら、大事な娘をガードする時間に回すってェ~」
サングラスを掛けて一人そう呟く男は、その人相とは裏腹に高い声で何処の誰に問わず、一人自分自身に自問自答する。
下には黒いズボン。上には黒い羽織り。
それは日本の風習に沿った袴等ではなく、それら全ての出で立ちは天人のそれであり、その男が幕府のお偉い方だと言う事を指し示していた。
「ここは武州の辺りだとは思うんだがなぁ~」
タバコを口に咥えながらそう言う男からは、無駄に変な迫力を感じる。
そう、例えばえらく理不尽な事で殺されてしまわれそうな、そんな寒気を覚えてしまうのだ。
これは、この男の魅力か。
それともただの気のせいなのだろうか。
いや、サングラスを掛けている奴に良い奴はいない。
サングラス=人類皆殺し屋。
ならばあの怪しさ満点も男も、きっと良い人間ではないのだろう。
確証は無いが、その男と関ればロクな事が起きそうに思えない。
これは予知か予言か、はたまた未来の何かを指しての感か。
なんにしても、ここはとりあえずあのコワモテちょい悪オヤジには近付かないのが一番だろう。
「あの、すいませーん。私、道に迷ってしまってですね? 天然理心流道場って・・・・・何処にありますかね?」
アレ?
思いもがけずその男に声をかける者が・・・・・・
「あぁん? オジサンそんな事知らねぇよ? ていうか、ゴリラがなんで人の言葉が喋れるんだぁ。今すぐ射撃隊で始末しねぇとなぁ」
ズキュンッ!
その男の握っていた拳銃が、耳に響く良い音を立てる。
「ちょ、ちょっとタンマタンマ! 俺こう見えて一応人だから! ゴリラに似てても人間だから! ていうか! 射撃隊呼ぶ前に、あんたが先に手下してるから!」
いきなりの射撃を動物の本能で避けたそのゴリラ似の男は、涙目で手を顔の前にもって行き慌てて身を守る。
「俺の後ろに立って良いのは女房・かみさんか娘だけなんだよぉ」
睨みを利かせながら、そのコワモテちょい悪オヤジはカチャリとそのゴリラ男に銃を構える。
「どこの殺し屋!?」
「ゴルゴは俺の心の相棒だからしてぇ、迷わず身体が動いちまうからしてぇ」
ズキュン!
ゴリラ男の頭に弾丸が掠る。
「その名前出しちゃいけないから! 人へ簡単に銃を向けちゃいけないから!」
先程よりも声量を多少上げて常識を説くゴリラ男。
「嘘いっちゃぁいけないよぉ~? こんなにゴリラに近似する人間がこの世の中にいるはずがねぇだろぉ。オジサンの勘がそう言っている。てなことであの世へ行きなぁ」
男の頭へその銃口を向けるコワモテちょい悪オヤジ。
ヒューーーーーーーーーーーッ
二人の間に冷たい風が吹く。
その風はまさしく、男同士の決闘前に吹くアレだ。
ほら、よくサバクとかで男同士が銃持って決闘する時に吹くアレ。
分かる?
分かるよね?
私はみんなの声を聞けないので分かるという前提で話を進めよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二人の間にはなんとも言えない沈黙が下りる。
そこへ、ゴリラの救世主となる者が・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ナレーターまでゴリラで固定!?」
救世主が現れる直前にゴリラはウホウホッとなにやらツッコミを入れたが、あいにくと私たちは人間の為、ゴリラが何を言ったのか理解できない。
「俺、だんだん扱いが酷くなって無い?」
気のせいです。
「いや通じてんじゃん! 俺の言葉通じてんじゃん!」
両目に清い水を浮かべながら、ゴリラは勢い良く「ウホウホウホ!」と悲痛な叫びを上げた。
「成る程な、一体近藤さんが何をしてたかは解った。えーっと、あんたは・・・・・・・」
「俺かぁ? 俺は松平っつぅんだけどよぉ、気軽にとっつぁんとでも呼んでくれてかまわねぇよ?」
そう、ゴリラ男とは近藤こと。
そして、その元に現れた救世主とは土方だった。
土方は隣の町まで買出しに出た近藤が中々帰ってこなかった事を不審に思い、もしやあの歳で迷子か?と疑惑を抱きながら探しに来たのだ。
そこで土方が近藤を発見した状況が、銃を頭に突きつけられて何故か涙目でグラサン男と対峙している場面だった。
そこで、土方は直ぐに近藤さんに今の状況を訊き、土方初セリフと続く。
「そうか、なんか近藤さんが迷惑を掛けたみたいですまなかった」
ジワリ・・・・・
その土方の言葉でさらに涙を両目に溜める近藤。
案外土方にもSの血が流れているのかもしれない。
「なぁに、良いって事よ。それより、オジサンここにちょっとした使いに来てんだけど、この辺りにあるはずの道場って何処にあるか、知ってっかぁ?」
拳銃を懐にしまいながら、土方にそんな質問をする松平の言葉に、土方と近藤はお互いに顔を見合わせる。
「・・・・・・えっと、そこ俺の道場・・・・・・・・・・・・・・さっき俺・・場所聞いた筈なんだけどぉ・・・」
最後の方は声を窄めながら松平を見る近藤は、まるで生まれたてのゴリラよりも小さく見える。
コレ、別に間違いって訳じゃないからね?
心境の問題でゴリラってだけだからね?
「あん? このゴリラがその道場の天然理心流継承者だってのか? このゴリラが? 本当にぃ?」
指すような目で近藤を見る松平の眼には、疑いの色が宿っていた。
その眼はどう見ても(こんなゴリラがマジで?)と言っている様にしか見えない。
そんな視線を感じ見て、土方はそっと近藤のフォローを加える。
「近藤さんは見かけこそ確かにゴリラにだが、その寛大な心で不思議と人を惹き付ける。たしかにとっつぁんの言った道場の当主だ」
この時から既に、土方はフォロ方十四フォローの道を進んでいたのかもしれない。
「ところで、とっつぁんは近藤さんの道場に用があるんだよな?」
突然の話し転換に、松平はタバコを右手で口から離し土方を見る。
「ん? まぁな」
「ここじゃなんだから、とりあえず道場の方へ場所・・・・・・移動するか?」
土方のその提案に、松平はゆっくりと口に含んでいた白い煙を吐きながら空を見上げる。
「それもそうだなぁ」
最後の方でゴリラは、全く存在意義を生み出せずに今日はここで終る。
一体ゴリラはこの話で何の為に出てきたのだろうか。
ゴリラ自身の無能さを知らしめるためだったのだろうか・・・・・・・・
それは分からないが、次回はもう少しまともな扱いである事は保障・・・・・・・・・・出来るはずが無い。
近藤さんはシリアスパート以外はこういう扱いという設定なのだから。
はい、以上までがこの作品が掲載できていたところです。
全然連載できてない……っ!!
残念この上なさ過ぎる。風に持っていかれたルーズリーフ、誰かに拾って読まれていたのだとしたら恥ずかしすぎる。
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