連載していたけれどもサイト移転際に移動させなかったシリーズ
【ドタバタ一年奮闘記】二話
今回の依頼人が万事屋を去って十分が過ぎた頃。
神楽が大きな声を上げて定春と共に帰ってきた。
「銀ちゃーん、ただいまヨー。トイレットペーパー買ってきたアル!」
玄関をガラガラと開け、片手に持ったビニール袋を少し持ち上げながら神楽は今日の第一声を放つ。
「うっ・・・・・・・ん」
そんな神楽の元気の良い声を目覚まし代わりとしたのか、銀時は新八に寝かされていたソファからノソリと身を起した。
新八は暇な為、暇な主婦の様にテレビをただボーと見ていたが、銀時の上げる呻き声に気付いたのか、テレビから視線を外し様子を伺うように声をかける。
「あ、銀さん大丈夫ですか?」
その前に神楽へ「おかえり」の声をかけろとも思ったが、その前に銀時のみに起こった事を思えばそれも言えまい。
「ん? どうしたアルか銀ちゃん」
丁度そんなところへ、神楽も銀時がソファの上で身を起こす所を目撃し声をかける。
普段なら「おかえり」の一言があっても良いものなのだが、今日はそれがない上に銀時の様子を伺うようにして新八が銀時に声をかけていた。
その様を見て、神楽はちょっと不思議に思い銀時のみを案じてか、そのやる気のない眼を覗き込むようにして口を開く。
「痛ぇ・・・・・・・・・・あれ、俺何時の間に寝たんだ? 寝た記憶ねぇぞ?」
頭を左手でさすりながら心底不思議そうに口を開いた銀時。
その頭にはそれなりに大きなタンコブが出来てはいたが、それ以外は別段と変わった所はない。
因みに、今銀時の頭の上で己を誇示するがの如く膨れ上がってるそれは、“あの”イチゴ牛乳を飲んで銀時が倒れた際に勢いよく床に頭を打ちつけ出来たものだ。
「あれ? 銀さん身体なんとも無いんですか?」
「あぁ? “なんとも”? なんの事だ。てかよく分かんねぇけど俺の頭タンコブ出来てんだけど・・・・・・・新八なんかしたか?」
新八の言っている事(いみ)を理解していないのか、訝しげに新八を見て銀時がその様な事を問う。
だが、直ぐ神楽の存在に気付き、その視線は新八から神楽へと移行した。
「おぉ神楽か、おかえり。トイレットペーパーちゃんと買って来たんだろうな?」
「あ、あれ? なんともなさそうですね」
その様子におかしいなぁとでも言うように小首かしげて銀時を見る新八。
その様子を見て、おかしいと思ったのは神楽。
ちなみに銀時は新八の方をすでに見てはいない。
ただ頭をさすりながらしきりに「マジでこれいつ出来たんだ?」と呟き落している。
「一体どうしたネ新八」
「・・・・・・・いや、なんでもないよ神楽ちゃん。・・・・・・ってコレェ!また一ロールだけ!? こんなんじゃ誰かがお腹壊した時が大変だよ!!」
問われた神楽に新八はなんでもないとでも言うように首を振り、神楽にスッと差し出されたビニール袋を受け取る。
だが途端に新八は声を張り上げ神楽にツッコミを加えた。
「うるさいアルなぁ眼鏡のくせに」
「眼鏡のくせにって何!? その冷たい視線はなんなの一体!?」
神楽は新八を冷たく一睨みして手のひらをシッシッと猫を追い払うように振った。
「はいはい。新八は何時までもお母さんごっこをやってるヨロシ。ん? 銀ちゃん、本当にどうしたネ? 頭でも打ったカ?」
しかし、そんな事をしていた神楽の瞳に映ったのは今だに頭をさすって呟く・・・・・・というか、むしろボヤキに近いものを落していた銀時の姿だった。
「ん、いやなに、ちょっとタンコブがな。別に大した事じゃねぇよ」
「本当に大丈夫ですか銀さん?」
本当に頭の怪我(たんこぶ)は大丈夫になのかと心配になった新八も、神楽にツッコミを入れるのを一時中断して銀時の様子を伺う。
「あぁ、さっきからそう言ってんだろ? それとも銀さんの言う事が信じられないってのか?」
「別にそう言うわけじゃ・・・・・・・・・・・・」
「ならもう良いだろ? それと神楽」
ポンッ
そんな効果音が聞こえてきそうな程、銀時に勢いよく手のひらを頭に乗せられ、神楽は一瞬キョトンとしたが、すぐにその瞳は違う色を浮かべた。
「次はちゃんとしたトイレットペーパー買うようにしような?」
銀時は神楽の頭を優しく撫でつけ、本当に優しい日の光のような微笑みを浮べてそう言った。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」」
二人は沈黙の後、同時に疑問を唱える言葉を吐き出す。
その声は、この万事屋にはただ空しく響き渡ったという。
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