連載していたけれどもサイト移転際に移動させなかったシリーズ
【三つの交差】一話
「銀時、今日の所はここらへんで休まんか?」
「へいへーい」
桂の言葉に、銀時は気の抜けた返事を返す。
天人を二手に分かれて倒しに出ると作戦立てた二人。
だが、二人に付いて行った仲間は皆死に、二人の身体も既にボロボロ。
「ヅラ、今俺達は何処らへんにいるんだ?ここは小さな村のようだけどよ……」
「たぶん武州だろう」
「武州?聞いた事ねぇな」
「ここは俺達が居た所同様、田舎だからな」
既に日は傾き、空はくれない色に染まっている。
軽く口元を緩めてそう言った桂の顔には、何処と無く物憂げな表情が見て取れた。
銀時はあえてそれに触れようとはせず、辺りを見回して口を開く。
「それよりヅラァ、身体を休めるたってよ、一体何処で休めるってんだ? また野宿でもするつもりか?」
「いや、せっかく田舎とは言え民家のある村に来たのだ、何処かのお宅にお邪魔させてもらおう」
「どこも攘夷志士なんか家に上げたくないとは思うがな」
自嘲じみた表情を浮かべて己が身に纏う物を見下ろす銀時。
その銀時が身に付ける物は、白い布地に鮮やかに映える赤い花を咲かせていた。
桂も同じように自分の身に纏っている物を目に映し、銀時にこう返す。
「出来なければ昨日と変わらず野宿するまでだ」
「あーあ、たまにはジャンプをじっくり読みながら甘味を摂りてぇなぁ」
「なにを甘えた事を」
口では甘えた事を口走る銀時を嘲る桂だが、その表情はおもったより柔らかい。
「ん? 銀時、何か聞こえんか?」
「聞こえる? 天人はこんなとこまでこねぇだろ」
「いや、そういうんでは……」
「トシ!まだ立ってるかッ!?」
「馴れ馴れしくトシなんて呼んでんじゃねぇ!」
何人もの男たちに竹刀を振るいながら叫ぶ二人の青年。
その二人は何人もの男たちを倒していくが、その圧倒的な数にはさすがに圧されている。
「はぁ……はぁ。うちの流儀で特訓したとはいえ、さすがにこの人数じゃきついな」
肩を大きく上下させ息をつく一人の青年、近藤。
「はぁ……はぁ……はぁ。なら、俺をほっとけば良いじゃねぇか」
こちらも肩を激しく揺らして息をつく青年、土方。
「武士の志を持つ者が、怪我人ほって置いてそんな事が出来る筈があるかぁぁぁ!」
周りにはまだ三十人近くの者が二人に向かってくる。
口では強気な事を言っている二人だが、さすがにもう駄目かと覚悟を決めた。
その時……
サァーーーーーーッ!
二人の目の前を白い何かが駆け抜けた。
「グハッ」
「グッ」
先ほどまでその数に物を言わせ二人を追い詰めていた者達は、
一陣の風が吹き抜けたかと思えば次々と呻き声を上げながらその場に倒れていく。
「なッ……」
そして五秒もせぬ内に、周りにいた男たちは皆、その場に倒れ伏した。
しばらくの間、何が起こったのか理解も出来ず、その場に立ち尽くし言葉を失う二人。
そんな二人の目の前には、ものの五秒で周りにいた男たちを昏倒こんとうさせた一人の男。
白い衣に身を包み、その銀髪の髪には誰のものとも付かぬ血を浴びた、美しき一人の青年が立っていた。
「あ、あんたは……?」
声の出ぬ二人の内、その青年に向かって先に口を開いたのは近藤。
だが、近藤に問われた青年はこれに答えを返さず、逆に一つ、ものを問う。
「ちょっと良いか? チィと頼みがあんだけどよー、ちょっと二名ほど、お前等どっちかの家で身体を休ませてくんねぇか?」
先程までの鋭い眼光はどうした事か。
先ほどのそれがまるで夢幻かのごとく、
見る影も無いほど気の抜けた瞳に変えてそう問う青年に、
二人はまたしても言葉をなくした。
「おい銀時! いくら身体を休ませてくれそうな者がいたからといって、俺を置いていくことはなかろう!」
階段をゆっくりと上りながら、二人の目の前に姿を現す黒髪長髪の青年。
その青年は、銀時と呼ばれる青年に一つ文句を垂れる。
「ヅラ、遅かったな?」
「お前が早すぎるんだ! たく……そこにいる二人を助けたら甘味の一つでもご馳走してくれるのではと言う。俺の妄言を本気にしおって……」
「!? ヅラ! あれは嘘だったのか!?」
二人の存在を忘れてか、そのまま話を始めてしまう二人の青年。
本当に、先程あった事は夢だったのか。
今では子供のような喧嘩を目前で繰り広げ始める。
「……お、おい! お前らは一体何者だ!!」
またしても誰かに助けられてしまった事実が腹立たしいのか、
冷静な判断力を取り戻した土方が二人に怒鳴り声を上げる。
「あぁ、すまない。自己紹介もまだしてはいなかったな。俺は桂小太郎。で、こっちの腑抜け男は坂田銀時だ。」
「どーもーー」
長髪の青年、桂小太郎の言葉に一気に熱を下げてしまったらしく、銀時はえらく間延びした返事を返した。
今この時より、皆の知る未来が変る。
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