連載していたけれどもサイト移転際に移動させなかったシリーズ
【三つの交差】
「ほう、おぬし等は武士を目指しているのか」
前を行く二人が声高らかに話す。
「あぁ!こんな田舎だからそんな機会も中々に訪れはせんがなぁ。ガッハハハハハハハハ!」
一人はもう一人の話に興味を持ち。
一人はもう一人の態度を気にせず高らかに声張り上げる。
そんな前二人の後ろには、死んだ魚のような目をしてその二人の後を付いていく一人の青年と、常に瞳孔開きっぱなしの青年が付いて歩く。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「あ、あのさぁ」
「あ゛ぁ゛?」
「さっきから気になってたんだけどよぉ……なんでそんなに瞳孔開いた眼で、さっきから俺を睨んでんの?」
前の二人とはえらい違いだ。
こちらの空気はえらく冷めている。
「あ゛? これは元々だ」
「いやいや、そっちの方じゃなくて」
青年――――銀時の言葉に、瞳孔開きっぱなしでずっと銀時の事を睨んでいた土方は、一瞬クエスチョンマーク[?]を浮べたが、すぐに言葉の意味を理解する。
「…………」
そして、それ故に言葉を紡ぐにも紡げなくなってしまう。
口を真一文字に閉じ、眼の中に渦巻きを描きながらその顔を真っ赤にする土方。
今にもボンッ!
というような効果音が聞こえてきそうだ。
「ん、どうかしたのかお前」
そんな土方の様子に、今度は銀時が頭にクエスチョンマーク[?]を浮べた。
「…………た」
俯き加減で真っ赤になりながらも、このままでは余計に恥ずかしいと理解した土方が、必死に言葉を紡ぐ。
「あ? なんか言ったか今」
だが、その声はあまりにも弱弱しい。
銀時の耳には最後の「た」の言葉しか届きはしなかった。
拳に力をいれ、決死の力で声量を上げる土方。
「お前がさっき刀振るう姿を思い出してたんだよ!」
半ばやけくそにそう言い捨てた土方のその必死さを見て、銀時は不意打ちをくらい思わず吹き出してしまう。
「プッ」
「なっ!? 何がおかしいんだよ!!」
何がそこまで恥ずかしいのか、こちらが土方にきいてみたい。
先程よりもより深い渦巻きをその眼の中に描きながら、必死に銀時へ威嚇するその姿は、銀時の眼にはあまりにも、あまりにも幼く映った。
「あぁすまねぇな。つい。まぁ許してくれや」
まだ口元に手を添えながらだが、一応は謝ってくれた銀時にこれ以上突っかかるのは、こちらがまだ子供だと言う証拠。
お生憎と、土方は確かにまだ子供だが、それだけはきちんと理解している。
が為に、この先を追及する事は出来ない。
「へぇ、あそう。お前、さっきから俺の姿みてそれ思い出してたわけ」
銀時はフーンと鼻を鳴らしながら、土方の事を想いその顔を見ないように配慮する。
まぁ勿論、今土方の顔を見ればまた自分が吹き出してしまうと言う事もあるのだが。
「……だが信じらんねぇ」
しばしに沈黙後、前の二人を瞳に映しながら銀時は、隣でボソリと呟いた土方に問う。
「何が?」
「お前がさっきの奴と同一人物だって事がだよ」
「あーーーーーーー」
既にお山に顔を半分以上隠してしまっている夕日をボーと見ながら、
銀時はやる気も無く声を伸ばす。
腕は頭の後ろで組み、身に着けている衣血に濡れた衣と、それを身に着けている者の動作がいちいち噛かみ合わない。
「よく言われるは“それ”」
それ、とは土方の口にした事だろうか。
どこか遠くを見つめるような眼で、前を行く桂と近藤を見ながら銀時は口を開く。
「俺、やる気ある時とない時の落差っての? それが激しすぎるんだってねぇ」
だが気のせいだろうか、それを言った銀時の眼には、微かに悲しみの灯火が宿った。
「そうなのか」
土方はそれに気付いたがあえてそれには触れず、その場を軽く流す。
二、三歩それから歩いた時だろう。
前の二人が急に足を止めこちらを振り返った。
「銀時、ここが今日泊めてもらう事となる道場だそうだ」
そこは気付けばもう、近藤を主とする道場が目の前とする場だった。
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