連載していたけれどもサイト移転際に移動させなかったシリーズ
【三つの交差】三話
まだそれなりに新しい木造建築。
まぁ、解りやすく一言で言えば、銀時達が今日一泊させてもらう事になった近藤の『道場』に、鈴虫の羽音が響きわたる。
リーン リーンと涼やかな音を奏でる鈴虫やその他の秋虫。
そんな中、この道場の中は薄気味悪いほど静寂が包む。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
誰一人として声を発さない。
これはとても気まずい。
(く、暗ぇ~~~~~~~! なんなんだよこの暗さは。気味悪ぃっつーの。おいヅラ、お前なんとかこの場の空気を変えてくれ)
銀時はこの沈黙に耐えかね、桂もといヅラに目配せで救援要請を出すが
(・・・・・・・・・・)
(オイィィィィィィィィィ! 何おもくそ無視ってくれちゃってんですかお前! 全くふざけんなよ! 俺ァこういう「娘さんを俺に下さい」的な微妙な空気が苦手なんだよ! ヅラ、オイ!お前この俺のヘルプサインに気付いてんだろうが!)
(・・・・・・・・・・ヅラじゃない、桂だ)
(そこはどうでも良いんだよ!)
(どうでも良くない。桂だ)
(お前マジでウゼェェェェェェェェェェェ!)
器用にも目配せと互いの気の流れだけで会話をなし、この沈黙を何とかしろと互いが互いに言い合う。
とはいっても、この沈黙に耐えかねたのは銀時だけなのだが。
一体何故、銀時達が今こんな状況に陥っているかと言うと、話はほんの数刻前に遡る。
日が沈みかけた頃、二人は近藤の先導により道場に来た。
そこは思っていた以上には大きく、思っていた以上には新しい。
「ここが、俺達が住んでいる道場だ。最近改築したばかりでなぁ、まぁそれなりに広いとはは思うぞ?」
近藤が道場の敷地内に足を踏み入れながら、そんな事を言う。
桂はそんな近藤の直ぐ後ろを歩き、その後ろを銀時、三人の後ろを土方の順に足を踏み出す。
「「!」」
近藤が軽くこの道場の説明をし、四人が丁度道場の中に足を踏み入れた時、素早く何かに反応を示した銀時に桂。
急ぎ道場の中から飛びのき、先ほど感じた何かの気配から遠ざかる。
「いまだ!」
それと同時に、先程まで銀時と桂、そして今尚その場に体を置いている土方の足元に突如大量の水が降って降りた。
「・・・・・・・・・・」
当然、その場にいた土方はずぶ濡れとなる。
ピチョ ピチョ
土方の長い髪から滴る水滴が、間抜けな音を立ててその場に滴り落ちていく。
「いや~、水も滴る良い男ってのはまさにこの事だねぇ。どした? なんか言ってみろや」
「銀時、ふざけるのもたいがいにしろ。はああやって無言ではいるが本当はかなり恥ずかしい思いをしているはずだ。そうからかってやるな。ホラ見ろ、握り拳があんなにも震えているではないか」
この未来をお得意の危機察知能力により回避する事の出来た二人は、ずぶ濡れ男の後ろでそんな事を言う。
桂の言うとおり、土方は水を滴らせながら己の握っている拳を激しく震わせる。
だが、その理由は桂の想像とは違った。
「ヅラ、お前やっぱ馬鹿だろ? ありゃぁ恥ずかしいから震えてんじゃなくて……」
「総悟ォォォォォォォォォォ!! テメェ出てきやがれ!」
「……ほら、あそこに隠れてる悪戯ぼうずにキレてんだって」
土方は顔を真っ赤にして怒りを露わにし、銀時は偶たまにガサゴソと音を立てる草木に指を向ける。
銀時が指し示したその草木の中には、栗色の葉とは全く違う色がちょこんと覗いていた。
「ざまぁねぇや」
プッと笑いながら、その栗色は土方の叫び声に答えるべくその草木から姿を現す。
その栗色は黒い笑みを浮べながら、その愛くるしい顔で自分の事を今見ている銀時等に視線を投げかけた。
「ん? そういやぁあんた等……誰?」
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