連載していたけれどもサイト移転際に移動させなかったシリーズ
【無からの始まり】二話
「・・・・・・・・・・・」
んー
どうしたもんでしょうか・・・
「・・・・・・・・・・・」
これはさすがに気まずいですねぇ
「・・・・・・・・・・・」
今私の前には、まだあどけなさの抜けきらない一人の幼子が座っているのですが、その子は私の顔をじっと見つめたまま、視線を全く私から外そうとしないのです。
「・・・・・・・・・・・」
その上、こうも無言でいられると・・・・・・・・・・・・
「あの、私の言っている事・・・・・理解できていますか?」
「・・・・・・・・・・・?」
~~~~~~~~~~~~~~~ッ
コ、コレはなんと言う可愛さなんですか!
私の言っている言葉の意味が解らないというのはこの態度で解ります。
えぇ、それは別に構わないんですよ?
えぇ、本当に・・・・・・・・・・・・・・
本当に構わないんですが・・・・・・・・・・・・・
な、なんでそんなつぶらな瞳で小首かしげて頭に「?」マークを浮かべるのですかこの子は!
私は思わずあなたに抱き付いてしまいたくなってしまったじゃないですか!
落ち着け、落ち着くのです私。
いきなりそんな事をしてしまえばこの子に警戒されてしまいます。
ただでさえ《屍を喰らう鬼》と命を狙われ続けた境遇により、変にその〈気〉を感じ取る事に長けてしまったこの子にそんな事をすれば、またこの子はあの生活に戻ってしまいます。
こ、ここはとりあえず落ち着きましょう。
いくら子供好きといえど、初対面の子にそんな事をすれば、私はただの「危ないオッサン」というレッテルを貼られてしまいます。
大丈夫、大丈夫ですよ私。
あ・・・・・
でも、冷静になって思えば、この子は長きに渡って人の世から離れていましたね・・・・・・・
それならば人の言葉など解るはずも無い・・・・・
「名前・・・・」
「・・・・・・・?」
「あなたに、名前をつけて良いですか?」
言葉がわかっていないとは解っています。
けれど、一応聞いておかねば・・・・・・・・・・・
「な・・・・・・ま・・・え?」
目の前の子は、その紅い目を私から外さぬまま下を向いてそう呟く。
この子は一切の言葉を知らないと思えば、意外な事に私の言葉ゆっくりと復唱した。
・・・・・・・・案外、聡い子なんですね。
その言葉を聞き、私が一番初めに抱いた感情は感心。
なんと言うことだろうか、確かに一度聞けばこの年の子は全く同じ言葉を繰り返す事が出来るだろう。
だが、この子は人の世から一切としてその身を離していた。
まさかそんな子が・・・・・・・
ところが、目の前の子はそれだけでは終らず、その顔を天井に向けてからさらに言葉を続ける。
「し……かばね、くら……う、お……に?」
しばらくの間、私の喉元で声にならない声がつっかえてしまった。
人として荒すさみきってしまった者により、ここまで純粋な子に、こんな言葉を・・・・・・・
「それは、名前とは違います」
「・・・・・・・!」
自分の膝に乗せていた拳に力が入りながらも、少し苛立ちを押さえながら私がそう声を発せば、その子は途端にあどけなさの残るその表情を変え、私から部屋のギリギリまで距離を取り、まるで威嚇をしてくる獣のような顔つきに変った。
この子は、本当に鋭い・・・・・・
慌てて先ほど抱いた苛立ちを抑え、ゆっくりと微笑めば、その子はまたあの可愛らしい表情に変る。
あんなに小さな怒気に反応してしまうのか・・・・・・
この子はあれだけの〈気〉で、己の身を察知してしまうのか・・・・・・・
そう思えば、心に大きな錘(おもり)が圧し掛かったような感情を覚える。
これは苛立ちか?
これは悲しみか?
これは・・・・・・・己の力不足が感じる、悔しさか?
なぜ・・・・・・・・・?
この子はその見た目だけで、ここまでの経験をしなければならなかったのだろう・・・・・・・・・・・
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