連載していたけれどもサイト移転際に移動させなかったシリーズ
【無からの始まり】
人とは愚かなものだ。
己の身のため、なんのいわれもない者を傷つける。
それが純粋なればこそ、より深く傷ついてしまうもの。
それにすら気付けぬほど、今の世は、人の世は哀れなものか。
「・・・・・銀時」
銀色に鋭く輝くその髪。
それには白なんかに合わない。
何も持っていない、何も色が無い白なんかより、小さな光を反射し、何処か儚げで、それでいて安らぎのある銀色の方が、この子には合っている。
そして、今は何も無いあなたが、これからの時を、あなた自身の時を、無事に、過していけるように。
「・・・・・・ぎん・・と、き?」
私の言葉をゆっくりと呟き返しながら私を見つめ返す瞳には、困惑の色が色濃く浮かんでいた。
「あなたの色は銀です。そして、これからの時を、あなた自身が生きていける様に。あなたの名前は・・・・銀時です」
「ぎん、とき・・・・・!」
そうです。
あなたは銀時。
けっして鬼の子などではない。
れっきとした、人の子なんです。
鬼は名前を貰っただけで、そこまで目を輝かしませんよ?
今のあなたの顔が、その証拠です。
「あなたは・・・・・れっきとした人の子です」
今の言葉がそれほどまでに嬉しいのですか?銀時。
目が輝いていますよ。
表情こそ変ってはいませんが、感情と言うものは人である以上に無くなりはしません。
失う事は無いのです。
人の心とは不思議なもので、心を失ったと思う者でも、必ず付いて回る。
その身滅びぬ限り、感情と言うものはなくなる事が無いのです。
けれど、あなたはまだ、その心が乏しい。
感情というものがえらく希薄だ。
私の手で、少しでもそれを変えてあげたい。
人間としての幸せを、私はあなたに感じてもらいたい。
「あなたは今日から・・・・・私の子です」
「・・・・・・・・?」
今はその意味が分からなくても良い。
いつか、あなたは嫌と言うほどわかるでしょうから。
私が、あなたを生まれてきて良かったと感じさせる。
――――――――――銀時――――――――――
あなたの名前は、私があなたに贈る印です。
あなたの名前は、私が神に捧げる誓いです。
私があなたに贈る印。
それは、あなたが人であることの印。
私が神に捧げる誓い。
それは、必ずあなたに幸せを感じさせてみせるという私なりの誓い。
だから覚えておいてください。
「あなたは、人の子です。鬼ではなく人、鬼の子である必要なんか無い」
そして・・・・・・
「人の子は、誰かに一人には必要とされているものなんです。あなたを毛嫌いする者がいる中でも、あなたを必要としている者がいる。そして、あなたには私がいます。私が、あなたを必要としています」
今はまだ、私の言っている意味が分からないでしょう。
いや、あなたは私が何を言っているのかすら、理解はしていないでしょう。
けれど、いつか分かる日が来る。
私が今言った安い言葉などではなく、
あなたの身で、心で、
あなたはいつか必ず・・・・・理解してくれるでしょう。
そうなるであろうと、私は確信を持って言える。
あなたは、酷くおぼろげで、優しい子なのですから・・・・・・・・・・
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