連載していたけれどもサイト移転際に移動させなかったシリーズ
【無からの始まり】四話
春の麗な日和。
長い長い休みを経て、松下村塾に集う塾生。
その中には、もはやお馴染の
―桂小太郎
―高杉晋助
この二人の姿も見える。
「高杉」
「・・・・・・・・」
「今日は松陽先生、一体何を教えてくださるのだろうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ピキッ
「そうか貴様、この俺の言葉を無視するというのか」
先ほどから窓の外の景色をボーと見つめる高杉に、小太郎が何度も声をかけるが、高杉は小太郎の問いかけに何一つ反応を示そうとしない。
それの事実に怒りを覚えた小太郎は、その額に青筋を浮かべ黒いオーラを垂れ流す。
「・・・・・・・・・・・・・・」
だが、それにすら気付いていないのか、あえてそれを無視しているのか、高杉は以前とその視線を外の景色からはずさない。
「・・・・・・・・・」
その反応に小太郎は瞬時に表情を消し、無表情となる。
そしてゆっくりと腰を上げ、高杉の後ろへと回った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・晋助、一体なにを見ているんですか?」
突如視界が暗くなり、慕い尊敬い師の声が、高杉の耳元のすぐ近くで優しく響いた。
「・・・・・・・・・・・・・ッ松陽先生!?」
高杉は驚き先ほどまでのボーとした表情は何処へやら。
その顔に満面の笑顔を浮かべ後ろを勢い良く振り向く。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
後ろを振り向き固まる。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
口を開こうにも口の筋肉が引き攣り、言葉が一言も出ない。
「・・・・・・・・・・・・晋助? 何故、私の言葉を聞こうとしないんですか?」
今、高杉の目の前にいる人物が、優しく高杉に語り掛ける。
だが、その顔には表情は無い。
というか、その声とは裏腹に黒いオーラがその人物の輪郭を覆っている。
ジワリ………
高杉は、その滑らかな広い額にも、翡翠の瞳にも透明な雫を浮かべた。
「・・・・・な、ななな何するんだッ!? ヅラの馬鹿ァァァァァァァ!!」
「・・・・・・・・・貴方が私の言葉に耳を傾けようとしないのが悪いのでしょう?」
高杉の目の前には、無表情で黒いオーラを漂わせて優しく松陽の声を真似する小太郎がいた。
その声真似はまんま本人のそれであり、その声色も、語りかけ方も、イントネーションも、それら全てが松陽と近似している。
高杉は松陽の事を必要以上に慕い尊敬しているため、先程の声が松陽のものだと思いテンションを急上昇させた。
にもかかわらず、そこにいたのは松陽と髪が長い女顔という共通点しかない小太郎が、怒りを静かに滲ませてそこに立っていた。
その失望感はかなりのものだろう。
その姿をその瞳に映した時、高杉は小太郎の怒りに恐怖し冷や汗を額に浮かべ、その失望感に涙を浮べる。
そして、優しく表情を崩した小太郎は、その両手をそっと高杉の頭に沿え・・・・・・・
「痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いッ!!!」
勢い良く擦りつけた。
グリグリとこちらにまで音が聞こえてきそうだ。
あぁ・・・・・・
コレは見てるだけでもかなり痛い。
そう、この世界では晋助は泣き虫へタレ、小太郎の方が優位に立っているという設定なのだ。
そのため晋助はこういう扱い。
だが・・・・・・コレはあまりにも惨めなほどの仕打ち。
ご愁傷様です
チーーーン!
どこかであの葬式とかで鳴らすアレがなった気が・・・・・・・
それから数分後。
ピクッ
ピクピクッ
身体をピクリピクリ痙攣させ、その翡翠の瞳は上を向き、白目でその場に横たえる高杉が教室の壁際には転がっていた。
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