これは江戸、歌舞伎町に店を構えている『万事屋銀ちゃん』オーナーと、その従業員たちのお話である。
トホホホホ
肩を下げて道を行く彼は、見るからに元気がない。
彼らしい白と黒のコントラストも、今日はどこか悲しげだ。
太陽に照らされて、その眩い銀はどんより重たい雰囲気を醸し出す。
いつもは死んだ魚のような目と例えられている赤色も、今日ばかりは銀自身も否定できないような状態だ。
彼自身、道行きながら時たまガラスに映る自分の姿を目にし、納得する有様である。
本当にひどいツラだ。
顔は青ざめ、歩き方はまるでゾンビのようではないか。
そこまで考えて、彼はぶるりと体を震わせた。
どんより雲とは別に、彼の頭の上に浮かぶふんわり雲。それはイメージ雲。
その雲を覗けば見えてくる、m型眉毛の濃い顔と、瞳を輝かせている長髪の男。
その二つのイメージの中央には、重なって『マユゾン』の文字が浮かんで見える。
どうやらこのイメージが先程彼が体を震わせた原因のようだ。
「……嫌なもん思い出した」
口に手を当て、元々青かった顔を更に青ざめさせた。
そこまでの反応を示した彼は、イメージ雲の中で嬉しそうに頬を朱に染めた長髪の男に、唾を吐きかける勢いで目を据わらせる。
その目つきはまるでどこぞの7:3分けヤクザと同じではないか。
傍目からじゃ彼がカタギの人間にはとてもじゃないが見えそうもない。
気のせいか、道を行く人々も自ずとそんな彼を避けているように見える。
「…………」
ぶるぶる、ぶるり
犬猫がごとく頭振って慌てて頭上に浮かんでいた雲を散らし、彼は慌てて気を取り直した。
どんな話を考えていたのかまったく思い出せない。なんだ、これは。
とりあえず供養。
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