――――誰かがもし、お前の目の前で死にかけていたなら……お前はどうする?
『んなもん、俺が死なせねぇ』
――――もしお前の前に、お前を殺そうとする者が現れたなら……お前はどうする?
『殺させねぇよ』
――――……もしお前の大切なモノをそいつが壊そうとしたなら?
『そんなこと、させなきゃ良いだけの話だ』
――――そいつを殺すつもりはないのか?
『なんで殺す必要がある?』
――――なんでお前はいつも、他人を護ろうとばかりするんだ。
『そいつが俺の生きる意味だからだ』
――――お前の人生だろう? お前自身のために生きれば良い。
『むかし、俺は約束したんだ』
――――なにを?
『護ってみせる…………大切なモノを護るために強くなる……そう約束した』
――――お前は一体、何を護りたいんだ。
『分かんねー。……でも、たぶん俺は、俺の目の届く範囲の全てを護りたいんだ』
――――何のために。
『意味もなく生き続けていた俺に、あの人は刀を振るう意味を教えてくれた。だから、俺にとっちゃー護ることだけが生きる意味なんだ』
――――なら、それら全てを護りきれなかった場合……お前はどうする。
『そんなこと、俺が絶対させねぇ』
――――だが、この世には絶対なんて夢物語は存在しない
『それでも俺は護りきってみせる』
――――それが例え、お前自身を疎んじる者でもか?
『そうだなぁ、そこはまぁ……ケースバイケースってっことで』
――――……そんなことをこの先もずっと続けていって、お前に一体、何の得があるって言うんだ。
『んなモン、端っから求めちゃいねーよ』
――――お前の言っているそれはただの綺麗事だ。偽善者と同じだ。
『……そうか』
――――本当にお前はそれで良いのか?
『なにが』
―――お前は本当に、これからも他人のためだけに生きていけるのか?
『……それ以外に、俺がこの世を生きてて良い理由がねーんだ。俺がこの世を生きてても良い理由ってのは、自己犠牲という自分の命の利用価値』
――――自己犠牲は、最終的には自分自身のためだとでも言いたいのか。
『あぁ……俺は俺自身のために、この身を犠牲にしてる』
――――…………だとしても、やっぱりお前は偽善者だ。
『そうだな』
――――そう言ってお前は自分を犠牲にしてるくせに、結局お前は俺たちを護りきれなかった。
『…………あぁ』
――――お前の勝手な偽善者な言い分は別に良い。けど……現に護りきれなかった命は沢山ある。ならお前が生きてる価値は一体なんなんだ? そんな価値、あってないようなもんだろうが。
『知ってる。知ってるさ、んなこたー。……んなこと、昔っから知ってる』
―――知ってる? 本当にお前は知ってるのか? 本当に分かっていると、お前は言えるのか?
『…………だから俺は今でも足掻いてんだ』
―――今足掻いたからって、過去を変えることはできない。過去に救えなかった者達を、お前はどうする。
『俺の一生をかけて償うしかねーだろ……』
――――…………なぁ、白夜叉。なんでお前はあの時……俺たちを助けてくれなかった……?
『……あの時は、俺の力が足んなかったんだ』
――――白夜叉と恐れられていたくせに
『白夜叉っつっても、所詮は人間だ。俺は……鬼にはなりきれない』
――――お前は、人ではない。
『……あぁ、俺は生まれながらにして鬼と呼ばれてきた』
――――だが、お前は鬼そのものでもない
『……俺は鬼になりきれない人間だ』
―――どっちにも属さないとお前は言う。……しかし、多かれ少なかれ心はどちらかに分類できるはずだ。なら……お前は果たしてどちらの存在だ?
『……知らね』
――――……? 自分のことなのにか? お前は本当に、それで良いのか?
『別に構わねーさ』
――――中途半端な存在で、どっち付かずの存在であり続ける気なのか。
『……まぁ、この場合だとそう言うことになんのかね』
――――そんな奴なんかに、俺たちは命を預けてきたのか……?
『………………』
――――そんな中途半端な奴に、俺たちはずっと心を寄せていた。
『………………』
――――信じてた……。そんな奴でも、俺たちは信じてた。
『………………』
――――なんでお前は、あの時俺たちを助けることができなかったんだ。
『……すまねぇ』
――――人でもなく、さりとて鬼でもない。偽善者でありながら自己のため。意味のない自己犠牲を、それでもお前は続ける。お前が生きてる意味は……本当にあるのか?
『分かんねぇ…………』
――――白夜叉……お前はいつまで、そうやって生きていくつもりなんだ
『俺の生き方はたぶん、死ぬまで変わんねーと思う』
――――無駄だ……お前の人生は無駄だよ白夜叉。お前に救える命は、ほんのひと握りもない。
『分かってる。それでも俺は、この命続く限り、目に見える奴等をみんなを護り続けていたい――――
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