ループネタ。
何度も何度も転生を繰り返し、でも、その転生はただ同じ時間を繰り返すだけ。
その度に松陽先生は『屍を喰らう鬼』と呼ばれる銀時様を拾い、口では語り尽くせないほどの愛情を注いできた。
それなのに、松陽先生は銀時様に、その愛を直接言葉にして伝えることができなかった。
何度銀時様が人を殺すのを見ただろう。
何度銀時様が人の心を殺した様を感じただろう。
繰り返す転生の中で、同じ時間を繰り返しても微妙にその内容は違っていた。
初めは親に殺されかけ、村から追い出された銀時様と出会った。
誰も信じられないと絶望し、自分の存在にさえ疑問を抱き始めていた銀時様を見て、松陽先生は始まりの人生で顔を歪めた。
――――なんでこんな子供が……。まだ、物心付いたか付かないかも覚束無いような子供じゃないですか。なのに、なんでこの子はこんな目に…………
最初は中々心を開いてもらえず、怯えられるばかりで口も聞けなかった。
それが次第に開き始め、なれた頃には笑顔を自然に浮かべられるようになっていた。
それが嬉しくて、周りの子供達とも溶け込んでいく姿を見て微笑ましくなった。
それなのに……
攘夷戦争だなんだ、時代の波には逆らえず、松陽先生は子供たちに習い事の真似をしていたというだけで捉えられてしまった。
松陽先生を連れて行くな……!!
叫ぶ銀時様に、松陽先生も必死に幕府側へ言葉を連ねた。
「私は子供たちに教えるべきことを教えただけ。あなた達の思うようなことは一切、あの子達には教えていません」
しかしどれだけの数言葉を紡ごうが、その言葉を幕府側が認めることはなかった。
そして、松陽先生は自分を奪還せんと戦を始めた教え子たちの存在を死の直前に告げられ、首をはねられた。
次に意識を取り戻したとき、そこはあの村で自分が塾を開き始めた頃だった。
転生……いや、正確に言えばそれはループにも似た感じだった。
松陽先生はまず、自分は死んだすぐ後に時間を遡ったのだと推測を立てた。
そして、それならば今度は銀時様が実の親に危害を加えられる前に私が引き取ろうと、何年も前の記憶にあったあの村へと向かった。
しかし松陽先生の読みは外れていた。
たどり着いた場所には村なんて姿かたちもなく、そこはただの平地だけがひろがていた。
松陽先生は混乱した。
こ、これは一体どういう事なんですかっ……。
なんであの村がなくなっている。なんで村どころか木の一本も見当たらない場所になっている。
こんな有様じゃ、数年後には銀時とであっていたはずの未来が、変わるじゃないですか……!
普通、村ができていないだけならまだ無理をすれば納得できた。
しかし、その場には近くに木の一本も生えておらず、とてもあと数年で村が出来るとは思えなかった。
松陽先生はそこで新たな推測を立てた。
もしかしたらこの世界は、あの時に似ているだけで本当は別の世界、時間なのかもしれない。
だとしたら、この世界には銀時は存在しない…………
そう思って新しい生としてこの世界を生きていこうと決めた松陽は、それから数年後、塾に桂と高杉という子供を迎え入れた。
そして、その二人と少し遠出をして世の情勢を渡り歩いていた頃、傷だらけで刀を引きずる銀時様を見つける。
それからは何度も似たことを繰り返し…………
ある時は肩から大量の血を流し横たわる銀時様を、
またある時は全身を真っ赤に染める、返り血を浴びた銀時様を、
何度も何度も、銀時様は辛い境遇の中、松陽先生と巡りあった。
今まさに殺されそうとなり、刀を握っているのにも関わらずそれを振り上げようともせず、まるで何かに疲れたかのように死を受け入れようとする銀時様を見つけた時、
松陽先生は自分が出せる全速力を出し切って、その刀を受け止めていた。
人を殺すことをなんとも思わず、むしろ殺される間には自分が人間を殺し尽くしてやろうと、人殺しを始める銀時様を見つけたとき、さすがの松陽も言葉を失った。
なんで、こんな子供がこんな目にばかり…………
本当にそうだ、銀時様と出会うときは多少の時間軸のズレはあれ、必ずしも恵まれた環境でなかった、望むでべき境遇であったことだけは確かだった。
そして、松陽の死もまた同様。
何度銀時様と出会い、信頼を築き、家族のようになって、本当に互が慈しみ合うようになって、引き離されたか。
親の存在というものを知らなかった銀時様は親代わりとなった松陽先生を本当の親のように思っていた。
いや、本当の親以上に強い信頼を松陽に傾けていた。
その親を理不尽な理由で奪われ、親を慕っていた別の子供二人と手と手を取り合って松陽先生を奪還しようとした。
そんな銀時様の現状を知らされた後で、松陽先生は毎度殺される。
「お前の教えた童(わっぱ)共は……やはり幕府に楯突いた。
聞いて驚け、そのうちの一人は大層立派な名をこの戦争で轟かせているぞ……白夜叉、とな」
それを聞き、松陽先生は何度も深い後悔に襲われ、その時間を止めた。
銀時は苦しんでいるだろうか。
誰かに愛されるということを知らずに育った子供。
それがやっと普通になれたという時に限って、何度も何度もこんな結末を迎えているのだから。
私は貴方を愛しています。
心の底から、私は貴方を自分の息子のように思っています。
だからどうか、あなたには苦しまないでいて欲しい……
松陽はいつからかそれだけを思うようになり、それを銀時に伝えようとした。
「 」
しかし、銀時様に直接その愛を囁こうとしたとき、松陽先生の口は開いてはくれなかった。
まるで、その言葉を直接子供に伝えることを神が禁ずるかの如く。
だから松陽先生はその分いろんなこと知識とし、学びとし、銀時様へ教えた。
直接この気持ちを伝えられないのならば、せめて、あなたにはこれから強く生きられるだけの糧を、今のうちに授けてあげたい……
初めのうちはこの残酷な運命を変えようと色々手回しをした。
幕府に書状を何度も繰り返す転生の中で出し、このような事態にならぬようにやったこともある。
塾の場所を移そうと考え、三度ほど実際にそれをしたこともある。
しかし、そのどれもがまるで決められた道筋に従うかのように、最期は絶対、似たような結末になった。
そして、そうやって繰り返す人生の内でとうとう、あの邂逅がやってきた。
屍の上に座り込み、酷く澄み切った目で握り飯を口にする子供。
その子供と出会い、松陽は今までになく、やけに自分の気持ちが穏やかになったのを感じた。
「鬼がいると聞いてみれば……君がそう?」
彼につけられる呼び名は、何度繰り返しても変わらず、幼子の時は『屍を喰らう鬼』、成長してからは『白夜叉』だった。
だから探して探して、漸く見つけた。
でも、今までは無理に自分が引き取ろうと躍起になっていた。
今回の人生くらい、この子の好きにさせてみたい……
松陽はそう思い、「……もしそう思うのなら付いてきなさい」と、自分についてくるかを訪ねた。
銀時様は投げ渡した刀を暫し見つめ、松陽先生の跡を居った。
それからまぁ原作通り。
それから例の別れの時が訪れ、松陽先生は一つ、銀時様と約束した。
「銀時、あとの事は頼みましたよ……なァに、心配はないよ。私はきっとスグにみんなの元へと戻りますから」
帰れるわけじゃない。
松陽先生はこの後、自分が死んでしまうことを知っていた。
だから、あえて戻ると口にした。
きっと、またこの人生を繰り返すのだろうと……
「……だからそれまで…………仲間を、みんなを護ってあげてくださいね。……約束、ですよ……?」
貴方は白夜叉と呼ばれる程に強くなる、そうなるように、私の持てる全てをあなたに授けてきた。
だから、その力で他のみんなを…………
そう願って、銀時に約束を取り付けた。
自分がもう一度この人生を終え、改めて人生を繰り返すまで……と、期限を自分の中に設けて。
しかし、交換条件として自分が一方的に取り付けた約束は、交換条件の代わりが果たされなかったことによって無効となってしまう。
松陽は、首を跳ねられた瞬間、もう一度、いや、何度だって繰り返す時に思いを馳せ、次はどんな境遇に銀時があっているのだろうかと考えた。
今度はもっと、もっと銀時に愛情というものを教えてあげたい……それを思ったのがこの人生の最期だった。
そして、首に衝撃を感じてすぐに目を開き、愕然とした。
松陽の目に映ったのは、あの村の美しかった緑もなければ、塾を開き始めた頃の景色でもなんでもなかった。
目の前にあったのは、跳ねられた自分の顔が少しだけ幸せそうに笑って転がっている、自分が殺された直後の光景だった。
なぜ、どうして……?
なんであの時に戻らない。
――――私は、銀時と約束をした。「きっとスグに戻るから」と。
その代わりに取り付けたのがあの約束だったのに、これでは、意味がないではないか……。
ボタボタと大量の血を首から垂れ流す自分の体を見つめ、松陽は意味がわかないと混乱した。
吉田松陽の人生は、今度こそ巻き戻ることはなかった。
大体のあらすじというか流れはこんな感じ。
書きたい場面は…………
「……あなたの名前は銀時です。昔から、そう決まっていました」と言い、それを疑問に思いながら納得する銀時様。
(これは一番最初に出会った時、銀時様が自分で「銀時」と名乗ったから)
「あなたの誕生日は10月10日の今日です。……私とあなたが初めて出会った日。それが、あなたの誕生日です」
そして、誕生日は決まる。これは、年齢が一歳、二歳違っても、出会う時は必ず10月10日であった事が由来。
幽霊状態となった松陽先生は、原作軸の中で本当に最後の人生を終える設定。
皮肉なことに、約束をした人生に限ってそうだった。
人生を終えた松陽先生は幽霊となり、自分がいなくなった死後の世界を初めて体験する。
そして、銀時様の人生をずっと傍観し、自分が杞憂であったことを知る。
「あなたは今……幸せなんですね」
いろんな人に囲まれ、たくさんの笑顔の中で生きる銀時様を見て、松陽先生は涙しながら、成仏しようとする。
そして
「私はあなたを、長い時間接して本当の息子のように思っていました。あなたは私にとって、本当に大切な息子ですよ……愛して、います」
その時になって初めて、銀時に直接聞こえはしないが、声に出せた。
松陽はそのことに言った自分自身が一番驚き、次第に透け始めた身体をフッと笑った。
――――本当に、私は銀時が大切でしたよ……
最期、それを口に出せたかどうかはわからない。
けれど、それだけを言い残して、松陽は誰も知らない中、ひとり成仏した。
「……………………?」
「……銀さん、どうかしたんですか?」
「あ、いや…………さっき誰かに……」
何かを言われたような気がして……と言いかけた銀時は、耳に酷く優しい声がしたのを感じた。
――――本当に、私は銀時が大切でしたよ……
「せん、せい……?」
後ろの方でそれが聞こえ、振り向いた銀時の視線の先には、いつもどおりの日常、お妙にストーカー行為を働きボッコにされる近藤と、そこから少し離れたところでショーウィンドウの中に展示されている服に釘付けの神楽がいた。
「銀さん?」
そんな銀時の様子を不審に思って声をかける新八に、銀時はしばらく口を閉ざした後、頭を振ってから新八の方へと顔を向けた。
「いや、やっぱなんでもねぇや」
まぁ、そんな感じで日常のことなんだけど幸せなんだ、何も心配することはないんだ、今はいろんなやつに銀時様は必要とされているんだ的な感じでエンド。
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