真夜中と言えど、住宅街へ出ればまだまだ明るいのが江戸の町。
キャバクラにホストクラブ、有名どころの水商売は今この時分が稼ぎだろう。
このあたりからは少し離れるが、キャバクラ『すまいる』やホストクラブ『高天原』と言えばこの辺で知らぬ者もいまい。
あそこには知り合いも多い。
だからこそ、あの場を避けてここに来たってのに……
「ハァ……多串君ってほんと、バカだよねぇ」
「あぁ? テメッ、何溜息吐いてんだゴラ」
動向の開ききった目で鋭く睨まれても、あんな発言の後じゃ野良犬に睨まれている程にも感じない。
V字前髪の下に位置するその目を見て、俺は木に止まっている虫にひたすら吠えるおバカな犬を連想した。
「な、なんだよその目は。なんか文句でもあんのか」
「いや、べっつにー? ただ、犬だなぁって」
「犬? 幕府の犬って言いたいのか」
「俺は攘夷志士じゃねーよ」
「それなら犬ってのはなんのことだ」
「大したことじゃねーよ、気にすんな」
「いきなり犬だって言われて喧嘩売ってる以外にどう受け取れってんだ」
夜、人気の少ないとこでバッタリ土方と出くわしたところまでイメージしたのは覚えているが、その後どんなことを考えていたかはもう、今となっては思い出せない2022年である……
Comments