「どうすりゃいいんだろ」
白い雲がひとつとして浮かんでない晴天。
そんな日和にポツリと呟かれた言葉。
空を見上げながら思わず口をついて出た言葉に、慌てたように彼は自分の両手で口を塞いだ。
歩みを止め、ぶんぶんと首を振ってあたりを見渡す。
誰もいない。誰にも今の言葉を聞かれていないことを確認し、彼は安堵した。
周囲には人っ子一人おらず、あるのは深く生い茂っている緑のみ。
万緑の森が彼を囲っていた。
最近、母の視線が痛い。
元からそうであった事は否めない事実であるが、ここ数日、そういった視線により剣が交じるようになった気がする。
時々、それに恐怖すら感じる。
正直実の母親からそんな目で見られるのは悲しいし辛い。
どうすれば自分のことを認めてくれるのだろうか。
彼の最近の悩みの種はもっぱらそれだ。
先の呟きもそんな思いがついつい口から零れ落ちてしまったのだ。
本当にどうすればいいのやら。
「ハァ……」
今度は答えの出ない悩みに事に息詰まり、溜息が漏れる。
しかし、いつまでもこうして足を止めているわけにもいかないので、彼は止めていた歩みを再開させた。
今だって彼が一人こんな森の中に来ているのは、母や父のためであった。
どちらも自分のことを嫌っている。
それでも干害が続き、水が尽きかけていたから。水をとってくれば喜んでもらえると考えて。
一人で不安ながらも、彼は川を求めて森の中を彷徨い歩いていた。
一歩歩けば足の裏が傷んだ。
森の中を歩く彼の足には、なにもなかった。
草鞋なんて贅沢なものを、彼はもらったことがない。
幼い少年でしかない彼は、そんな足で森の中を歩き回り、足に傷を作ってもなお、二人のためにと歩き続ける。
歩くたびに血は滲んだが、二人から突き刺さる視線に比べれば大したことないと、彼は足の痛みを意識の外へととばした。
少年である彼の健気な思い、それを両親はどう思うのだろうか。
認めてほしいと悲観するでなく努力を続けるも、全て虚しい結果に終わる子銀の、辛いだろうに本人は「もうちょっと認めてもらいたいよなー」程度にしか思ってないような話を書きたかったなって。
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