亀の足並みの速さで、天上を覆っている雲は流れる。
風は轟々と唸り声をあげ、大地の至るところで砂煙を上げた。
火花が散り、雄叫び声があちらこちらで上がるここは──戦場だ。
戦場の中では常に死と隣り合わせ。
気を抜けば視線を彷徨うのは必至。
刀を振い、衣を翻し、返り血を浴びながら侍はその中に身を投じていた。
手にした刀に思いをのせ、自らに襲いかかる危険と引き換えに、侍たちは各々に何かを守り抜こうと、己の意思を貫こうと奮闘する。
戦とは残酷なものだ。そんな侍たちの命を、戦は簡単に散らしてしまうのだから。
何が悲しくて、無駄死にをしなければならないのか。
何が苦しくて、仲間の死を目の当たりにしなければならないのか。
悲しみと苦しみは、混沌の中にあっても表裏一体だ。
時代の流れに逆らい、足掻いて者待つのは望むべくもない未来。
時の針は止まることを知らない。
白い衣を身に纏い、銀色の髪に血を浴び、戦場を駆る姿はまさしく夜叉。
攘夷戦争も後期、侍たちの戦力が著しく減少していった最中、誰が言い始めたのか。
そんな謳い文句と共にある噂が侍たちの中で広まりだしていた。
夜叉の参加した戦では、死者の数もぐんっと減るらしいぞ。
俺の知り合いは、その夜叉に寸でのところで助けられたらしい。
夜叉だけじゃない、その仲間たちも恐ろしく腕がたつんだってよ。
そいつら、まだ二十にも満たない元服したてのガキだって噂だぜ。
攘夷戦争参加したてで頼られつつも恐れられていた幼なじみ組みが見たかっただけの話。
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