日に日に肌寒くなっているように感じる風に、髪を揺らしながら吹かれていた銀時は、庭に植えられていた紅葉の葉が風に巻き込まれ、とぐろを巻いていたのを見た。
もう秋も終わる。次は冬将軍の季節。
去年までならそれに命の危機を感じて身を震わせていたが、廊下の奥から漂ってくる美味しそうな匂いに、銀時は猫のように自分の喉がなるのを感じて去年までのことを思い出した。
お腹を空かしている状態が当たり前だった。
腹の虫も腹減りの度合いが過ぎて死んでしまったのではないかと、そんな心配してしまうくらいにはお腹を空かせていた。
山に入っても口にできる物の数は限られていたし、川へ行って魚を採ったとしても、獣に狙われて結局食事にありつけずに終わっていた。
人里に行くなんてのは論外だ。己のことを見咎めた者は皆「鬼子」と罵った。
「鬼子」でなければ「忌子」や「化物」と罵られたこともある。
大抵の人間は人を外見でしか判断しないからか。
身を守るために屍から剥ぎ取った刀を持っていたせいもあるのか。
己の銀髪を見て、人は普通とは違う子供……恐るべき存在だと勝手に思い込んだ。
そして、自分の命を守ろうとして俺の命を狙って襲ってきた。
そうなったらもう、お腹が空いただなんだ言っている場合ではない。
だから人里には近寄ることもできずにいた。それが去年までのこと。
銀時は十日前に拾われた。
屍が山を作る場所で、吉田松陽と名乗る男に。
松陽は今まで出会ったどの人間とも違った。
銀時を見て殺気立つでもなく、鈴鹿な口調でこう言ったのだ。
「……ついてきなさい」
その言葉に拘束力や強制力なんかこれっぽっちも含まれちゃいなかった。
自分の意志でついて行くもいかないも選べる。
むしろ、自分の意思でそれを選ぶように言われたような言葉だった。
だから惹かれた、吉田松陽に。
ついて行った先で松陽と名乗った男はいろいろ教えてくれた。
自分が俺と同じ年の頃の子供を集め、松下村塾なるものを開いていると。
そこで子供たちには一体何を学んでほしいのか、聞いてもいないのに朗々と語ってくれた。
なぜ塾なんてものを開こうと思ったのか。
〆→木の葉が全部散り、新しい季節の本格到来を知らせていた。
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