これは銀魂小説を書き始めた最初期頃に書いたもので、あまりにもひどい出来だったので、二次小説投稿サイトが閉鎖する、という事態になった際に、サイトを立ち上げるかと動き始めた折、二度目のサイトで移転を省いた駄作です。
最初期のサイト、以前ブログで懐かしいと投稿したサイトには掲載があります。
よく、夢に見る。
それは、酷く悲しいもので。それは、酷く辛いもので。それは、酷く苦しい。
その筈なのに、その傍らに。
それは、酷く嬉しいもので。それは、酷く懐かしいもので。それは、酷く落ち着くものだったりする
気が付けばあたりは赤く染まっていて。
周りには、守ろうとしていた者の血肉が散らばって。
俺は、その中に一人佇んでいる。
「夜叉……」
「命を奪わんとする鬼」
「お前がいなければ……………」
誰とも言わずに声がする。
分かってる、分かってるんだ・・・・・・これは俺の夢だって。
ちゃんと分かってる、理解しているんだ。
俺はその身を毒とする鬼なんだって。
俺の身体はその肉片から、その吐息から、その赤い血の一滴。
それらが全て、人とは違うって事。
きっと俺の全てを構成するそれらからは嗅ぎ分けられるかも怪しいほど薄く、薄く……
しかし、けっして消えはしない腐臭が、この身に染み付き離れはしない腐臭が、この内に息衝いきづいているのだろう。
俺はこの世に生を受けた時より腐臭の中に身を置き生きていた。
そう、俺は腐って吐き気を催すであろう腐臭を放つ屍かばねの間を行き場所にしていた。
人であろうと、天人であろうと、動物であろうと。
生物の全て、それら全てが死んでしまえば、元はなんであれ、俺にとってはただの“物”でしかない。
グニャリと腐り崩れる落ち、強い臭いを撒きちらす屍が累々と大地に黒々と広がるその光景が、俺にとっての本当の故郷ふるさと。
動き声を発する“人”は俺を虐げ拒絶したが、地面に埋うまるようにして赤く濡れていたその場にある“物”はそっと優しくこの俺を生かした。
きっと時代が時代ならば、銀時は人に気味悪がられると共に人に崇め奉られていたことだろう。
人とは可笑しなものだ。
自分とは姿形が違えば全身全霊をかけてそれを拒絶するか、全身全霊をかけてそれを崇高する。
だが、時代は銀時を拒絶した。
時代は、銀時を認めなかった。
時代は、銀時に生と共に死をその身に宿した。
特別何をしたわけではない。
特別何か出来たわけでもない。
ただ、小さな命をその身に宿し、生涯死と共に生きる事を運命付けられ、俺はここに在あるだけ。
生きている限り、お腹が減ってしまうのは必然の事。
生まれて間もない仔が、人の温もりを求めるのもこの世の道理というもの。
銀時はなにを思うでもなく、幾度とこと自然に人の住まう村落そんらくへ向かう。
だが、そこで受ける仕打ちも同じ。
蔑さげすまれ命を奪われんとする。そんな事の繰り返し。
まだ幼い銀時は、何故そうなるのか理解など出来ない。
しかし、何年もそれを繰り返せば、馬鹿でも自おのずと答は導き出せる。
理由はいたって簡単だったんだ。自分が自分である為のこの姿。
切っても切り離すことの出来ない生まれながらにしてもっていたその色。
それら全てが、銀時を人とはしなかった。
それら全てが、銀時を人間以外のものとした。
それが鬼。そう、俺は鬼。
この身に生と死を宿した鬼。
ただ、その身に宿した死というものはけっして自分には降りかからないもの。
“死”が襲うのは俺の周り、俺が守ろうとする者。
いわば、これは毒なんだ。
俺は生まれながらにして、毒をこの身に宿すもの。
そしてこの毒は、この俺が死なぬ限りは永遠とこの俺の身に巣食すくうのだろう。
悲しくも無い。
嬉しくも無い。
たった一人で生きていた頃はその事に気が付かなければ気にする必要もなかった。
けど、ある日俺の元に一人の人間が現れた。
その人間が俺に名をくれ、俺を鬼ではなく人としてくれた。
生まれて初めて、幸福というものをこの身に受け入れられた
その人間は感情をこの身に植えつけてくれて、愛情でこの身を浸ひたしてくれた。
そして、己おのが身に宿すその“死”により、その者を殺めてしまった。
その者を救い出さんと足掻いた。
そこで仲間となった者達もどんどんとその“毒”で殺めてしまった。
けれど、その場で逃げ出すわけにも行かなかった。
たとえこの俺が逃げ出しても、この俺の身から染み出た“毒”がその地を侵し、その場に染み付き俺の仲間を殺めてしまう。
一度関りあえば必ず死に近付いてしまう。
だから、その時はそこから逃げ出すことは出来なかった
幕府の全面降伏。
これで、俺はこいつ等の元を離れられる。
そう思って俺はその場を離れた。
死ぬことは許されない。
死ぬ事は出来ない。
俺は鬼だから。俺は化け物だから。
誰とも関らず生きようと決めていたのに、俺は、また余計なものを背負い込んじまう。
いつかはその者も俺のみに巣食う“死”により死なせてしまうと、充分に理解していながらも俺は背負い込んじまう。
これは生まれながらにして俺が持っていなかったもの。
これは人として生まれた時俺の身に宿してしまった物。
だからこそ俺はよく夢に見る。
かつて仲間であったはずの動かぬ“物”が俺自身を攻めている夢を。
それは心を抉えぐられる様に悲しく、辛く、苦しい。
けれど、かつて仲間だった“物”が昔懐かしの故郷を思いださせてくれる。
それは嬉しく、懐かしく、落ち着かせてくれる。
俺は今一人なんだ。
俺は今人を生かせているのだと。
けどそれは幻想・虚想に過ぎない。
そこまで夢の中で理解した時、俺は心の像を掴まれたような息苦しさを覚える。
俺は目が霞み始めるのを確かに感じる。
ドロリ・・・・・・・………
肌を伝って鉄の臭いが鼻をつく。
懐かしい臭い、腐臭。
だが、それは今まで見てきたものとは違う色をする。
人が流す色とは違う。
人の流す感触とは違う。
それは限りなく透明に近い銀色で。
それは限りなくつややかに流れ出る。
ドロリと流れ出る一方。
どこから流れ出ているのか理解できず。
キラキラと輝き光る一方、
それは何よりも薄汚れて光を放つ。
それはこの世のもので例えるならば水銀に近いものだ。
水銀は見た目こそ綺麗かもしれない。
昔は不老長寿の薬と広められその身にそれを流し込み死すものさえいた。
そう、水銀こそは“毒”
水銀こそが“死”を呼ぶ毒なのだ。
それ故に、今俺の身体から流れ出るのは水銀にも似た“毒”
俺は、俺自身の色に犯おかされている。
それが、何よりの証拠なのかもしれない。
俺自身が毒なのだというなによりの【証拠】
目が霞む中、目を開けばその銀が何よりも目を惹く。
そして、その毒を俺の中から抜き去ろうとする者は今俺の周りにいる連中だ。
刀をそれぞれに握り締め俺の身体に突き刺す。
刀を付きたてられたそこからは身体を支配する痛みと共に愛しさが込み上げた。
ドクドクと俺の中に巣食っていた“死”が抜け出ている。
何処から血潮が流れ出ているのか分からない筈だ。
俺の身体のあちこちから流れでているのだから。
俺の身体から血がなくなっていっている為か、俺の身体から“死”という名の“毒”が抜けていっている為か。
身体を痛みだけでなく痺れまでもが支配しはじめる。
そして、俺は夢から覚めようとする。
その時、必ず鮮明に焼きついてしまうあいつ等の顔。
なんでそんな辛そうな顔をするんだよ。
なんでそんな泣き出しそうな顔をする。
俺は今幸せなんだ。
俺は俺自身の死により、お前等を守れているんだから。
(ありがとう・・・・・・・・・・)
だから、そんな顔をしないでくれ。
「銀さん! またジャンプを呼んで寝てたんですか!? 今日は九兵衛さん家で二日遅れの誕生日パーティなんですから、早く出かける用意してください!」
俺が目を覚ます時に限って、周りは何時も騒がしい。
「・・・・・・あぁ新八、机の右上の引き出しから誕生日プレゼントだしといてくれ」
「分かりましたから早く用意・・・・・ってまたノートですか!? いくらなんでもコレは酷いでしょ!」
「ギャァギャァうるさいネ新八。銀ちゃんが恥を書くのは別にどうでも良いヨ!」
「そういう神楽ちゃんは酢昆布が誕生日プレゼントなわけ?」
「そうアル! 酢昆布万物全ての物にあう代物ネ」
「土方さんみたいな事を言ってるよ・・・・・・?」
「そういや姉御から聞いたヨ。今回は真選組の連中も来るって。サドと顔をあわせるなんて想像するだけで気持ち悪いアル」
「あぁ、以前の時は招待し忘れたからって・・・・・・・・・・」
本当に、なんで俺の周りはこうも騒がしいんだろうな。
これは、神様が俺に紛らわしとして贈ってくれるプレゼントなのだろうか。
ありがたい事だ。
けど、どんなに楽しげな所でも戦禍が遠くなった今も腐臭を放つ。
それは、屍だ。
それは、戦場だ。
それは、血で血を洗い、骸を蹴り臓腑を踏みにじる戦場に棲むもの。
死に装束を血斑に赤黒く錆びつかせた夜叉。
血と臓腑、腐汁と腐臭、死と不吉の徴。
恐いのは、毒を溜めた俺自身なのだと、今でもたまに、思い知らされる。
だが、俺は捨てられない。
この温かさを知った今じゃ、その後を理解していても、手放すことなんかできやしないんだ・・・・・・
俺は、この身に“死”という名の毒を積み重ねて生きていく者。
俺の生まれながらにして持つ色は『銀』
銀は確かに綺麗だが、その色自体が“毒”となんら変わらない。
― 俺は生まれながらにして ―
― “毒”をこの身に積み重ね生きていく ―
― 死と共にある鬼 ―
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