悲しいから、楽しいから。
そんな理由で涙を流せる奴を、幸せな奴だなと思う。
「──坂田!」
教室を出たところで声を掛けられ、坂田と呼ばれた生徒は後ろを振り向いた。
「なんッスか、近藤先生」
「あ、いやなんだ、入学したてで悪いんだがな……お前にちょっと話が」
高校入学早々、自分が教師に声を掛けられる理由は一つしかない。
これも小学校、中学校と同じか。
生徒、坂田銀問いは気だるげに頭を掻きながら小さく息を吐いた。
「言っときますけど──」
目の前にいる妙に毛の色が濃い先生、近藤勲先生。
彼が何故自分に声を掛けてきて、今言い難そうにいい淀んでいるのか。
その理由は今までの経験上、分かりたくもないのに手に取るように分かってしまう。
だから、銀時は近藤が言い淀んでいる言葉の先を続ける前に口を開いた。
「俺のこの髪、一応こんなんでも自前なんで。別に信じてくれなくても良いんですけどね。ちなみにこの目も自前。カラーコンタクトなんて無駄なモン、俺には買う金もないって事、先生ならもう知ってんでしょ?」
挑発的な色を、自称「自前」の赤い瞳に秘め、けれど何処か自嘲染みた笑みを浮かべた銀時に、しかし近藤は慌てたようにブンブンと首を左右に振り、両手はブンブンと振られる顔の前でテンポよく開いては交差してと、銀時の言葉に何かしらの否定を示した。
「すまん、そうじゃないんだ、勘違いさせて悪かった! 実はそうじゃなくてだな……えーと、さっき坂田出しただろ? 『バイト希望届け』の手続き書類。それについてちょっと確認しておきたいことがあったんだ」
自分の言った言葉になんら疑問をもった様子もない近藤に、果ては自分が思ってもいなかったことを言われ、銀時は多少驚いた反応を見せつつ、近藤に尋ねてみた。
「ふーん……で、聞きたいことって何ですか、近藤先生」
「あぁ、それなんだがな……ちょっとここじゃ聞き難いというか……」
またしても言い難そうに言い淀んだ近藤を見て、銀時は理解した。
彼は一体何を聞きたがっていたのか、それを正確に、それも何一つ違える事なく。
理解して思った。
別に、言い難そうにする必要なんかねーのにさ、と。
こんな事、別にそこまで気を使うほどの事でもない。
なんなら、俺はここでそれを言っても全然構わない……くらいの事でしかないのだ。
それなのに今、銀時の目の前にいる人のよさそうな男、近藤はそんな銀時の内心が当然分かるはずなく、酷く言いづらそうに言葉を濁している。
クスリ
顔にこそ出さなかったが、銀時は途端に面白くなって、内心笑みを零した。
「……なら、早く場所を移してその話とやら……終わらせましょうか」
パラレルで家族にも恵まれず、貧乏な高校生坂田銀時の話を考えていた気がする。
近藤の人のよさも絡めたいなって考えてた気がする。
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