出会いは最悪だった。
真選組うちの大将(近藤さん)と女を駆けて勝負し、派手に負かしたという噂が奴を知ったきっかけ。
それまで万事屋なんて怪しい仕事のことなんか、この江戸に出てきてから耳にしたこともなければ、それこそ、あの野郎の目立つ名前や顔を見かけた記憶すらない。
それが、あの日をきっかけに全てが動き出した。
出会ってしまえば、奴の気配が江戸の至る所に散っていることに気が付いた。
何故それまで、奴の存在に気を留める事がなかったのか。
俺だけじゃねぇ。
総悟は傍目からじゃその見た目も合間ってかそうと思われないらしいが、実のところ、俺以上に好戦的で強さを求めるきらいがある。
自分と同等かそれより強い者には、無意識に目をギラつかせ嬉々としてその獰猛な牙を向ける獣。
総悟はちっせーナリの時から、俺とは違って天才だった。
そんな総悟でさえ、奴のことはそれまで目にしたこともなければ耳にしたこともなかったらしい。
気が付けば仕事の巡回中にも人の目を盗んで茶屋で団子を楽しんでいるような奴だ。
そういった行動の賜物と言ってもいいものか、総悟はそれで江戸に独自の情報網を持っていたりする。
そんな奴の情報網にすら今まで引っ掛かってこなかったあの野郎の存在。
だが、一度あの存在を認識してしまえば、何故それまで奴の存在に俺たち真選組が気付けなかったのか、不思議を通り越して奇妙なくらいには、奴の顔も奴が引き起こした騒動の規模もデカかった。
それまでに何度か通報のあった、チンピラの喧嘩。俺たちが現場に着いたときには既に決着がつき、ボロボロになった敗者のみがその場に転がっていることがあった。
今になって思えば、あれも奴の仕業だったようにしか思えない。
怪しい。
いや、あのおちゃらけた、ふざけた態度からして胡散臭さは疑うべくもなく一級品だったわけだが。
真面目に考えてみれば、あの男の存在そのものが、怪しいものにしか思えない。
これは何か裏がある。
結論が出たら即座に行動。
最近目撃情報の多くなってきた攘夷浪士たちについての報告資料をまとめた俺は、山崎に奴を探らせることにした。
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山崎からの報告書
『一日目』
万事屋に依頼人が一人訪れる。川辺に落ちているゴミ拾いをして星の一日は終了。依頼料は団子一本分にもならなかったらしく、夕方に不満の雄叫びが聞こえたらしい。
『二日目』
依頼人もなく、外に出る気配もなく。存在感の薄い眼鏡の少年が万事屋を訪れたようだが、万事屋に入ろうとして鍵が閉まっていることに気がついて数分後諦めて帰ったそうだ。
『三日目』
万事屋の下に居を構えている店から、婆さんが一人万事屋の玄関を叩いた。どうやら万事屋へ家賃の取り立てに来たらしい。万事屋から人の気配が消えていた。二日目から既に、奴は家賃回収から逃亡を図っていた模様。監察の山崎の監視から逃れるなんて、奴ができる奴なのか、山崎の職務怠慢を注意すべきか今はまだ判断に迷う。
『四日目』
日が暮れた頃にボロボロになった奴が万事屋に帰ってきた。服のあちらこちらが解れ、所々焼け焦げたようなあとも見受けられると報告書にある。偶然かなんなのか、時を同じくしてこの日、最近江戸を騒がせていた攘夷浪士たちが港にあるコンテナの一角で一斉検挙された。その数は30人にも上り、そいつらは何故か焼け焦げ頭が可哀想な状態で俺たちに捕まった。どうやら人質として市民も何人か誘拐されていたらしく、コンテナにはそれとは別に数人残っていた。残っていたというのは、俺たちがコンテナに到着する数十分前には他の人質をは自力で逃げたらしいということだ。コンテナに残っていた市民の話によると、なんだか滅茶苦茶な侍が初め人質としてここに連れてこられ、浪士たちの話を聞いていて急に叫びだし、訳の分からないツッコミと共に暴れまくって人質を解放したらしい。
「お金が楽に稼げるって話はどうなったんだぁあああああ!!!!!!!」
という叫びからの唐突なチャンバラ劇に、困惑しその場に立ち往生はしてしまった者と、さっさとその混乱に乗じてこの場から逃げ出した者とに人質にされていた市民は分かれてしまったらしい。
そのチャンバラ劇と言うのもかなり一方的なものだったらしく、結果として立ち往生してしまった市民は呆然とその一部始終を見ていることしか出来なかったそうな。全てが片付いた後、一人で大暴れしたという侍は「家賃どうすっかな…やべーよこれマジやべーよ今度こそあのババアに追い出される!!!」とぼやきながら顔を青ざめてコンテナを出ていったという話だ。
これ、もしかしなくてもあの野郎じゃねーか?
『五日目』
なんかめんどくさくなっちゃったぞ☆
で終わってたので、本当に飽きたんだなって察した。
それでも勿体無いなと思ったのでこちらにて供養。
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