シンと静まり返った真夜中の学校。
なにか異常なことはないか。見廻る人も帰路についた時刻に、その影は現れた。
ペタ ペタ
月明かりで薄ら明るい廊下に、不気味な音は響く。
何かがはりつき、また離れていく。そんな音だ。
日の光が降り注ぐ時間に聞けば、これほど間抜けな音もないだろうに。
真夜中、それも学校で響けばこんな音でも人の恐怖心を煽る。
ペタ ペタ
足音は一定のペースで進み、しばらくその音を響かせたあと、不意に音の質を変えた。
ペッタン ペッタン
廊下にはりつく音は短く、離れていく音は長く。
この音の主は階段を登っているようだ。
一階から、二階へ。
登りついて、またペタ、ペタという音が廊下に響く。
聞きようによってはヒタヒタとも聞こえるが、これ以上ホラーチックにはしたくないので、あえてペタ、ペタと表記することにしよう。
上へ、上へと。屋上を除いたこの学校の最上階、三階へとたどり着いた時、ようやくペッタン、ペッタンという音は止んだ。
その代わり、妙に寒気を誘うペタ、ペタという音が再び廊下に響き始める。
学校の廊下だ。当然視界の端には対極に並ぶ窓と教室がある。
男は視界に映る教室のプレートを見上げ、目的の教室を探し始めた。
確か、この階層だったはずだ。
教室を一つ、二つ、三つ……と過ぎ、数分の間それを繰り返し、ようやく目的の教室を見つけたのか、男はある教室の前で足を止めた。
『3-Z』
掲げられたプレートの文字を確認して、男は口の端を高く釣り上げる。
脇にそこそこ大きな額を持ち、扉へと手をかけた男の髪は、一瞬日の光に照らされ、銀色に光った。
【糖分】
昨日まではこの教室に存在しなかった額縁に、投稿してきた『3-Z』の生徒たちはざわついていた。
なんだ、あれ。
おまえ、何か知らないか。
俺が知るわけないだろ。お前は知らないのかよ。
知ってたら聞くと思うか、バカ。
バカといった奴がバカなんだぜ。
いや、お前たち、バカと言ったらカバに謝らないと。
はぁ?
え……?
いや、だからカバに……
といった具合だ。
途中から話題の中心が【糖分】の額縁からズレていってる気もするが、ともかく『3-Z』の生徒たちはざわついていた。
「……なんなんだ、朝っぱらから」
土方が教室に訪れた時には、クラスのざわつきは最高潮に達し、クラスにいた殆どの者が「バカと言った奴は……」という話題で盛り上がっていた。
クラス内の喧騒が、耳に痛くて土方は眉を顰め、思わずといった風に足を止めた。
「今日は遅かったですね、土方さん。何かありました?」
そこへかけられた声に、土方はより一層眉間に皺を寄せる。
「今日は部活の朝練があっただろうが」
「あれ、そうでしたっけ?」
「とぼけんな」
「いやぁ、俺はほら、今日あれだったから……日直?」
「疑問形じゃねーか!!」
教室内には何も飾られていない花瓶がぽつんと寂しく存在していて、沖田が日直の仕事をしていないことを証明していた。
ホラーっぽい始まりからスタートするギャグが書きたかったなー(過去の話)
銀白のボツというか、これ下書きにしてたんだけど、途中でどっかに見失って新しく書き上げたのでボツになったやつ。
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