[銀魂]目も眩むほどの青[前編]
- siversou

- 2 日前
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去年書いた梅雨に合わせたSS
少しSSと呼ぶには長いので前後編で分けしましょう。
加筆してまとまったらページにまとめて更新するかもしれません。
【目も眩むほどの青[前編]】
淀んだ雲の下、雨に降られる男が一人。
あてもなく、まるで何かに追われるように歩き続ける男は、色素の薄い長髪を背へ流していた。
男は緑深い山の中を行く。
ふと、そんな男の視界に、目が覚めるような青が過(よぎ)った。
「……はな、ですか」
気を取られて足を止めた男は、視界の端にあった“それ”に目をやる。
それは、山中に咲き誇る紫陽花の花だった。
雨は視界を燻んだ色に見せる。
そんな明度の落ちた灰色の世界で、その紫陽花だけは実に鮮やかな青色をしていた。
山中で見かける紫陽花はその殆どが紫や青に近い水色であるが、視界に過った“それ”だけは、いっそゾッとする程の青さで。
男は暫くその花を見つめ、そう言えば、と昔このあたりで人に追われて四肢を斬り落とされた過去を思い出す。
たしか、男の記憶が正しければ昔、このあたりで四肢を斬り落とされ動けなくなり、一度意識を飛ばしてしまったはず。
次に目を覚ました時には、見晴らしのいい場所で四肢を磔にされ、火にかけられていたのだったか。
己を見て恐怖に染まった目で見てくる群衆の顔を、よく覚えている。
てっきり、あの時は斬り落とされた手足がくっついて体が再生したのかと思っていたが、あの時斬り落とされた手足は、もしかしたらこの辺りに落ちたまま、腐敗し、自然に還って花となったのかもしれない。
己の体は、普通と違うらしい。
そんな自身の体の一部を養分にして成長したのならば、いっそ毒々しいまでに青く色づいているこの花の色にも納得できる。
男は、自身の不気味な体でも、植物にとっては大変喜ばしい存在である可能性に思い至り、自身の腕に視線を落とした。
そして──山中に赤が舞った。
*****
「……おい」
「…………」
「なぁ」
「…………」
「おいってば」
「…………」
「おい、聞いてんだろ松陽!」
「はい、聞こえてますよ、銀時」
「ならさっさと返事しろよ」
「……」
「……だから黙るなって」
「……」
「……はぁ、もういい」
松陽と銀時は、緑深い山の中を歩いていた。
松陽と出会い、ついて来いと言われて引かれるようにその背を追った銀時は、その後松陽と各地を歩き回りながら生活していた。
特に当てもない二人旅。
まるで居場所を求めるように。
そのくせ、何処にも根付くつもりがないように旅をする松陽と共に旅をし始めた銀時は、松陽の人となりはなんとなく分かってきたが、未だに松陽が何を考えているのかは読み切れずにいた。
今だってそうだ。
この山の麓の村まで来た松陽は、ふと山の方に視線をやり、なんの前触れもなく微笑みを浮かべたかと思うと、銀時に
「こっちです。来てください」
とだけ言い、この山を登り始めたのだ。
この山の中に食い物や村があるとも思えない。
いや、自然動物はいるかもしれないが、わざわざ食い物をを求めるために山中に入ったとは思えなかった。
故に、なぜ今山登りをしているのか声をかけたというのに、松陽は銀時の問いには答えず、ただ歩みを進めるだけ。
いい加減、銀時も理由を尋ねても無駄だと悟り、山中を行く理由を問うことを諦めることにした。
松陽は山を登りながら、後ろでやれやれ……とあきらめの表情を浮かべて背をついてくる銀時を見て、再度笑みを深めた。
「そろそろです。実は、銀時に見せたいものがありまして」
「見せたいもの?」
「はい。……たしか、この辺りだったと思うのですが」
そういって周囲を見渡しながら足を止めた松陽に倣い、銀時も足をとめ、視線を上げた。
「──?」
一瞬、銀時の視界に異質な青が映りこむ。
「あ、あそこです」
言いながら歩を進める松陽の後ろを追うも、その場に立った銀時は、半ば呆然とした様子で声をもらした。
「…………なんだ、ここ」
視界一面を覆う、鮮やかな……否。鮮やかが過ぎる、青。
青が視界に滲み、瞬きの後に、瞼の裏に青が弾けて白んだように見えた。
まさに、「目が眩むような青」と表現すべく青い紫陽花たちが、そこにはあった。
「“紫陽花”という花です。ここまで見事な青い紫陽花は、滅多に見られませんから」
松陽の顔は、どこか懐かしむような、それでいて妙に誇らしそうに。
滅多に見ない感情の滲むような松陽の表情に、銀時はゾクリとしたものを背中に感じた。
「ここ、お前にとって特別な場所かなんか?」
「特別ってほどでもないですが、昔に何度か、ここに来たことがありまして。その都度、この紫陽花には肥料をちょっとね」
「へぇ、意外だな。オレぁてっきり、お前は花より団子なタイプかと思ってたぜ」
「まぁ、否定はしません。花は腹に溜まりませんし」
そんなことを言いながら紫陽花に手を伸ばす松陽の姿が、目も眩む青のせいで、元から松陽の色素が薄いせいもあってか、一瞬とけて消えてしまうように錯覚した銀時は、咄嗟に松陽へと手を伸ばした。
「……どうしたんですか、銀時」
自身の手首をつかまれる前に銀時を振り返って見た松陽の目には、普段と変わらない、優しい、それでいて力強い色が宿っていた。
「いや……」
銀時は松陽から視線を反らし、松陽の後ろに咲き誇る紫陽花に目をやった。
「なんでもない。花も十分めでたし、そろそろ行こうぜ。腹減った」
「……そうですね、もう山を下りましょうか。そろそろ昼時です。下りる頃には太陽も傾き始めるでしょう」
銀時の視線が鮮やかな青に注がれているのを見た松陽は、銀時の提案に頷き、空を見た。
空には、紫陽花には負ける透き通るような青が広がっていた──
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